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Story for 1st. Anniversary

〜 Through the Night 〜


眠れぬ夜の 独り言





梅雨の名残りが水蒸気の粒まで見えそうな程にジメジメとした空気を生み出し、鈍い色の空には低くたれ込めた雲が敷き詰められていた。

ひとつ、またひとつ。
深い色の大きな瞳で、階段の踊り場の壁面にはめ込まれたステンドグラスに次々と重なる、雨粒をいくつか数えてみる。
そうしているうちに次第に大きくなり、連なって流れ落ちる雨垂れを指で追い掛けては、「あーあ、今日も外にお洗濯は干せないなぁ」、などと昨夜のうちに考えた今朝の予定を変更するべく、立ち止まって少し首を傾げた。

控えめにドアの開く音がしてふと目線を動かすと、自然と増してくる輝きをその瞳に溢れさせ、吹き抜けの手摺越しに階下の住人に声を掛けた。

「おはよ。どうしたの、今日はやけに早起きじゃない?」
「・・・んー、そぉかぁ?」

手にした新聞をちょっと上げて、見上げる角度で小さく微笑みを交わす。まだ寝起きでいつものような鋭さはないけれど、何処までも見通せそうに澄んだ瞳には、他の誰にも見せることのない、やわらかい光が満ちていた。




大学生となり、方向音痴の蘭でも広い構内を迷わずに歩けるようになった頃。
新一と蘭は同じ大学に通ってはいるものの、違う学部に在籍しているため、今までのように通学時や教室内で日中に顔を合わせることもままならなくなってしまった。
また、大学生になったことで、以前にも増して遠慮がなくなった警視庁からの呼び出しも、立派にその一因を担っている。

そこで新一が考えた現状打開策が、お引っ越し。
そう、渋る小五郎を得意の理詰めで押さえ込み、工藤家で蘭と一緒に暮らし始めたのだ。
今朝で丁度、1か月になる。

数ある客間の中でも特に日当たりの良い2階の角部屋を選び、これまた渋る蘭を「これから先も使うことになるんだから」などという、あとで落ち着いて考えれば赤面物の台詞で説得して必要最低限の改装工事を済ませたあと、蘭の個室用として使用している。
アイボリーホワイトの壁紙に、ブラウン系でまとめられた家具。クリームイエローの寝具とお揃いの色のカーテン。これと言って特別な物はないが、どれも上質な素材で作られたのだと一目でわかる物ばかりだ。

一方、新一の個室はもともと2階にあったのだが、蘭との同居を機に1階に移動させた。
元々、自分の部屋よりも1階の書斎やリビングで過ごすことのほうがずっと多かったのだから、もっと早くこうしておいても良かったのだが。また事件絡みでどうしても帰宅が遅くなりがちな新一にとって、深夜に物音をたてて蘭に余計な気を使わせるかもしれないということが、部屋移動の一番の理由となった。
取り敢えず、ベッドとテーブルと椅子のみという簡素な構成の、文字どおりの「寝室」を書斎の隣部屋に用意した。しかし実際にはその役目を果たすことのない日が多く続いている。
ちょっと横になるだけ、のつもりがいつの間にかリビングのソファで寝ていたり、書斎の椅子で推理小説に埋もれて眠っていたり、、、。以前なら「2階に上がるのが面倒だから」という理由も付けられたのだが。
そうして朝になって寝室以外の場所で発見される度に、「風邪でも引いたらどうするのよっ」と少し赤くなった瞳でじっと蘭に見上げられては、ひたすら謝って、、、をもう幾度繰り返しただろうか。




今日もいつものようにリビングのソファで新聞を広げつつ、蘭が入れてくれたコーヒーにずるずると口を付ける。まだ半分眠ったままのように重そうな瞼の奥から、瞳だけは蘭のほうに向けていた。
そこを「ほら、しゃきっとして!」と、トーストを運んで来た蘭に予告もなく背中を叩かれて、新一は口に含んでいたコーヒーを吹きこぼしそうになった。

「、、、ごはっ。急に何すんだよっ。」
「やだ、ごめんっ。大丈夫?」

蘭は慌ててサイドボードから箱ごと掴んで来たティッシュを差し出し、噎せ返る新一の背中を今度はやんわりとソファ越しに摩ってくれた。
だけど、新一は気付いてしまった。
一瞬だけその手を止めたとき、わずかに蘭が吐き出した、溜め息とも取れる空白に。

「なぁ、蘭。」
「ん?どうしたの?まだ苦しい?」
「あ、いや、、、ほらっ、そろそろ急いだほうがいいんじゃねぇか?おめぇ、今日は1限からだろ?」

暖炉の上の掛け時計を見上げて、あ、ほんとだ!とポンと手を打つ。
まだ部屋着のままでいた蘭は、身支度を整えるべく自室へ駆け上がった。途中、「キッチンにお弁当用意してあるから、忘れないでよ?」と振り返った表情は、いつも通りの、抱き締めたくなるくらいの眩しい笑顔。

そんな顔を見せられては、新一には最早何も聞けなくなってしまった。

(だーっ、何やってんだよ、オレは)

手にした新聞を思わず握りしめて、2階へ通じる階段をぼんやりと眺めた。
この数カ月の間、理系の新一と文系の蘭とはコースが全く違うため、大学の構内で出会うことは滅多にない。
それでも探偵なんぞをやっている所為か、人の噂もするりと集めることが出来る。講義も休みがちで、大学には余り姿を見せない新一の目と耳が届かないだろうとタカをくくっている連中が、レベルの低い視線を蘭に向けていることも、そんな輩に蘭が全く気付いていないことも、当然の如く知っていた。



タンタンタンッ。掛け降りて来る、軽いリズムで刻まれた足音。
降り続く雨が作り出す屋外の生温い空気を一掃するかのような、朝に相応しい、爽やかに弾む声が再び新一を包み込んだ。

「ちょっと新一、帰って来てからわたしも新聞読むんだから、そんなグシャグシャにしないでよ!」
「・・・わぁってるよ。」
「それから、そのまま二度寝しないのよ?」
「へいへい。」

ローテーブルの上で新聞の皺を伸ばしつつ、トーストをかじりながら、モゴモゴと返事をする。
それでも意識だけは蘭を追っていて、離れない。
見送るつもりで目線を玄関に向けると、ドアノブに手を掛けた蘭がじぃっと新一の背中を眺めていた。とっさに別の表情をかぶせたつもりだろうが、隠しきれなかった部分が、わずかに寄せられた眉根に現われている。

「・・・いってきます。」
「あっ、お、、、い。」

パタン。

迷宮なしの名探偵、とは一体誰に付けられた形容詞なんだろうか。
「じゃ、また後でな」の一言すら、出せなかった。

閉められたドアに向かって中途半端に伸ばしかけた腕をそのままだらりとソファに落とし、一人つぶやくその姿は、ただの19歳の大学生の物だった。


***


「5回目、よ。」
「え?何が?」

米花デパートの地下、食料品売り場。
講義を終えた蘭は、同じスケジュールの園子と待ち合わせて、買い物に来ていたのだが、ちょうど切らしていた紅茶の茶葉を選んでいたところで、突然園子が蘭に投げ掛けた言葉がこれだった。

学部は違うが園子も同じ大学で、しかも蘭と同じ文系だから、新一よりも大学で顔を合わせる機会が多い。高校時代のように毎日会うことは流石に難しくなってしまったけれど、今でもこうして一緒に出掛けたり、大学のカフェテリアで延々話し込んだり、メールでやり取りしたりしている。
新一と一緒に暮らすことになったのを、蘭が真っ先に報告したのも園子だ。他に打ち明けたのは、大阪にいる和葉だけ。
新一の所在が知れなくて一番辛かったとき、背中を押したり両手を引っ張ったりしては蘭を支え、きちんと前を向かせてくれた、大切な友人だから。
この二人には、きちんと報告しようと思った。
その報告を受けて、和葉からは素直に「良かったなぁ、おめでとう」の言葉を、園子からは「そんなもの、一気に飛び越えちゃえば良いのに。あんたの旦那、思ったより行動力ないわね?」と遠回しに新一をけなしつつ、まるで自分のことのように喜んでくれていた。
余りにも“らし過ぎる”二人の反応が、蘭の心にはくすぐったいけれども心地よく響いて、胸が熱くなった。
1か月経過した今でも、リアルに二人の暖かさが蘇ってくる。

今日は引っ越し後のごたごたも落ち着いて、こうして園子と会うのは久し振りなのだ。
それなのに、いきなり謎掛けのような言葉を貰ってしまった。
少しだけ唸ってみてから白旗を揚げると、園子が2−3回首を振って解説し始めた。

「数えてたのよ、溜め息の数、を。ここに来てからだけでも、5回だよ?」
「うそっ、そんなに?」

自覚症状がないっていうのはやっかいね、と園子の分析は更に続く。

「蘭が新一君と暮らし始めて、いつ『毎日ラブラブなのv』ってオノロケを聞かせてくれるのか、ずっと楽しみにしてるのに。なんか全然楽しくなさそうじゃない。」
「そんなことないってば。」
「じゃ、なんでそんなに何回も溜め息付いたり、こんな紅茶を選んでるわけ?」

言い終えないうちに蘭が手にしていた紅茶パックを奪い取って、ラベルに目を落とす園子。
シルバーのアルミパックの中央に貼られている名前は、Lavender Tea。
このお店は、変わったネーミングや豊富なフレーバーで人気がある紅茶専門店。新一が姿を消した直後、余り良く眠れないの、とこぼした蘭に園子が教えてあげたのが、このフレーバーだった。
ここのラベンダー・ティはダージリンの茶葉をベースに程良くラベンダーがミックスされており、ハーブティは苦手という人でも飲みやすくアレンジされている。

あの頃、「ラベンダーって、気持ちが落ち着いて良く眠れるんだって。試してみたら?」と手渡された、丸いシルバーの缶。心配してくれる親友の気持ちが嬉しくて、心が暖かくなった。
その後、何度自分でも買い足しに来たのか、わからない。

「これは、たまたま切らしていたから、よ。」

サッと園子の手から紅茶パックを奪い返すと、セイロン、アールグレイの茶葉とともに、蘭はレジに向かった。
(なーにが、たまたま、よ。そんな鈍い瞳で言い返されても、全然信憑性がないってば。)

もし蘭が明日も同じ瞳でいたら、新一君に詰め寄ってやるんだから!
ふんわりした笑顔を浮かべて店員と話し込んでいる蘭の背中に、こっそり誓う園子だった。


***


その夜。

新一から「遅くなる」と事前にメールを受けていたので、園子と夕食まで一緒にしてから帰宅した。
そのまま課題と入浴、それに今朝出来なかった洗濯を乾燥機にて済ませると、既に日付けが変わろうとする時刻に差し掛かっていた。
一緒に暮らし始めた頃は、新一の帰りを待って遅くまで起きていたのだが、その都度新一に「オレに合わせる必要はねぇんだからな?」と嗜められる始末。
本当は「おやすみ」だけでもいいから、何か一言交わしてから眠りたいのだけど、そうすることで逆に新一の負担になりかねないと思い、この頃はある程度の時刻になると先に就寝するようにしている。
冷蔵庫に軽い食事を用意してある旨をリビングのテーブルに書き置きし、今日は短針が30度動いたところで自室に引き上げた。


ベッドに横になったときはこのまま上手く眠れそうな気がしたのに、やっぱり何処か落ち着かない。
もう、時計の針は2周くらい回った頃だろうか。
この時刻なら、いくら何でも帰って来てるよね・・・?
物音ひとつ立てず、蘭はそっとベッドから抜け出した。

まずはリビングを確認する。
人陰は、ない。テーブルを見ると、寝る前に残しておいた書き置きに、「ごちそうさま」の文字が書き足されていた。
新一の無事の帰宅にまずホッとして、続いて書斎を確認する。
こちらも人のいる気配はない。ということは、、、。


細心の注意を払ってそっと押し開けたドアの、細い隙間から、部屋の主の姿を確認する。
窓際のベットから漏れてくる規則正しい寝息に、ようやく心の底から安心して。
カーテンの隙間から遠慮がちに射し込む月明かりを受けて、新一の整った輪郭がぼんやりと浮かび上がり、それがやけに魅惑的に見えて、蘭は慌ててドアを締めた。



逃げるように駆け込んだキッチンで、蛇口から勢い良く水を出し、やかんを火にかける。
何故だかドキドキしてしまっている自分自身に驚きつつ、心を落ち着かせようとして、いつものようにお茶の用意を始めた。

今日も買ってきてしまった、ラベンダー・ティ。
こうして真夜中にたった一人で開くお茶会も、今宵で何回目だろう。
蘭の手には、コロンとした丸い形がかわいい、白い陶磁器のティーポット。小五郎から同居の許可が下りて一番最初に必要最低限の生活必需品を買い出しに行ったとき、一目惚れしたのを新一に見破られ、引っ越し記念、とか何とか言って買ってくれたものだ。
ちょっと長めに5分間蒸らしてから、大きめのマグカップにたっぷりと注ぎ入れる。
実家にいたときにも、最初は眠れないときだけこっそり飲んだりしていたのだけれど、園子に言われるまでもなく、この頃自分でも飲む回数が増えたな、と思う。
新一と暮らし始めて、まぁ、確かにすれ違いになることが多いけれど、それまでに比べれば一緒にいられる時間は格別に増えた。
だけど、心の隅のほうに開いた小さな穴は今も埋まることなく、蘭の中に暗い闇を作り出していく。

両手でマグを包み込み、ダイニングの椅子の上で体育座りになって、まずは優しい香りを堪能する。
そっと口を付けると、琥珀色の暖かさが全身に広がってくる。

気障で格好付けで口が悪くて。でも、誰よりも優しくて、強い。
それが新一らしいのだけど、でも、他の誰にでもなく、自分にだけはぶつかって来て欲しい。
軽口のようないつもの言い合いではなくて、もっと深いところにある、本当の気持ちで。


「・・・わたし、ここにいて良いのかな?」

目尻が熱くなりだしたとき、ほうっ、と吐き出した吐息とともに、闇の底から浮き上がってきた言葉もポロリと溢れた。
この数日ずっと考えていたことを改めて口にしてしまうと、もう、気持ちの暴走は止まらない。

今朝、むせる新一の背中を摩ったとき、一瞬手を止めてしまった。
肩も背中もパンパンに張っていて、相当に疲れが溜まっているのに気付いてしまったから。

蘭の瞳から零れ落ちた思いがラベンダー・ティの表面を揺らしたとき、するはずのない返事が聞こえて、一瞬耳を疑った。

「おめぇ、ここ以外に行きたいとこでもあんのかよ?」

新蘭

えっ、と振り向くと、いつからそうしていたのか、濃紺のパジャマ姿でキッチンの戸口にもたれ掛かっていた新一が、ゆっくりと蘭の元へ近寄り、空いている椅子を引き寄せてドカッと目の前に腰を下ろした。
パジャマの袖で慌てて目をこすった所為で、蘭は余計に顔を赤く紅潮させてしまっている。バツの悪いところを見られた、と目線を反らそうにも、新一にマグカップを奪われて、うっ、と言葉に詰まった。

「で、オレのお姫さまは、こんな夜中に何をこそこそやってるんだろうねぇ?ん?」
「なっ、、、べ、別に、こそこそなんてしてないもんっ。」

真っ赤になって否定する蘭の細い顎に手を掛けて、俯く直前に目線を自分に合わせる。
すっかり言葉をなくしてどうにも逃げ出せなくなった蘭は、きゅっと両手で膝を抱き寄せ、伏せ目がちに新一を見つめるしかなかった。

「言えよ。」
「え?」
「今朝、何かオレに言いたいこと、あったんだろ?蘭がスッキリするなら、いくらでも聞いてやるから。」

物心付いたときからずっと一緒に育った仲だ。蘭が必死に隠そうとしていた瞳の奥に残る揺らめきに、新一が気付かないわけがない。
切り口を替えて、別方向から聞き出そうと試みる。この辺は、幼馴染みとして長年付き合ってきたキャリアが役に立つ。

「こっちはな、夜な夜な部屋を覗かれて、気が気じゃねぇっていうのに。」
「夜な夜なって・・・いつから気付いてたの?」
「最初から、だよ。名探偵を、なめんなよ?」

いつものように、ちょっと口角を上げただけの笑みが、どうしようもなく格好良くて。
この笑顔を見る度、水面下でうごめいているはずの新一の気持ちに手が届かないような気がして、胸がギュっと音をたてて締め付けられる。

その過程でどんなに無理をしたのか、周囲にはまるで感じさせないように、軽やかに微笑んで。
いつもいつも、「これくらい、何でもないよ」というように、どんな無理難問だって簡単に解いてしまう新一だから。
みんなが新一を頼りにしている。いや、頼り切っている。

その最たる者が、わたし・・・?


一度暴走させてしまった思いは、そう簡単には引き止められない。
大切に思えば思う程、相手が更に遠ざかってしまうような気がして、より強い孤独感が蘭を苛む。
だから夜中にそっと、新一の就寝姿を確認しては、安心するのと同時に自分の弱さを、毎日懸命に頑張っている新一のことを心の底から応援できなくなってしまっている、自分自身の小ささを、深く思い知らされてしまうのだ。

「わたし、、、疲れて帰ってきた新一のこと、起こしちゃってたんだね。ほんと、ごめ、、、んっ。」

ここまではどうにか冷静に考えてきたものの、もう視界がなくなるくらいに溢れさせてしまった涙が、蘭の頭の中を真っ白に塗り込めていく。
あとからあとから零れてしまって、止め方がわからない。

「ああ、もうっ、、、っく、やだぁっ。」

こうなると、もう出会った頃の子供のように泣きじゃくるしかなく、目の前の新一の姿さえ蘭には霞んで見えてしまう。
ふっ、と蘭の視界が青く染まった。
軽い吐息のあとに、甘い囁きが、蘭の耳に届けられる。

「おめぇに泣かれると、困るんだよ。」

新一は少し腰を折った姿勢で、小さくなって椅子に座ったままの蘭をふんわりと抱き締めた。不自然な形ではあるが、蘭の肩口に新一の額がのせられた状態で、ポソポソと新一の独白めいた言葉が続く。

「なんつーか、ほら、自分の無力さが身に沁みるっていうか、、、。おめぇのこと『守ってやる』なんて言いながら、こうやって泣かせちまってるし。」
「ちがうっ、、、これはわたしが勝手に泣いちゃっただけ、よ。新一の所為じゃないんだから。」
「あんま自分を低く評価すんなよ?本当に守ってもらってるのは、オレのほうだって言うのに。」

新一との隙間を少し空け、きちんと椅子に座り直した蘭が涙を拭って新一の言葉を否定しても、それを受けた新一が即座に打ち消していく。

「、、、わたしが、新一を?」
「ああ。何たって蘭はオレの“Guardian Angel”なんだからよ。」
「それって、守護天使っていうやつ?」
「おめぇがいるから、正直キツイときでも頑張れる。まだ大丈夫だって思える。何たってオレには、蘭、おめぇみたいな至上最強の天使がついてるんだからな。」
「つまり、腕っ節が強い、ってこと?」
「あのなぁ、、、。」

ちょっと屈んで蘭と目線を合わせると、新一も蘭と向かい合って座り直す。まだ涙のあとが残る頬に落とした、触れるだけのキスに添えて、真摯な口調で囁きかける。

「オレには蘭以上の存在なんていない、ってこと。わかったか?」

驚いたのと嬉しいのとで、すっかりごちゃ混ぜになった蘭は、頭の中でリフレインしている新一の言葉が溢れてしまわないように、そっと両耳を塞いだ。

不思議。新一のくれた一言が心の隅まで染み込んで、暖かい気持ちで一杯になれる。

あんなに渦巻いていた不安とか迷いとか、そういうものがみんな何処かへ吹き飛んでしまって、昔から良く見知った、いたずらっ子のように照れた笑顔を向けられた蘭も、自然と心穏やかになる。
今度は嬉し泣きの涙を目尻に光らせて、キレイに笑って答えた。

「ねぇ、いいの?そんなこと言われちゃうと、わたしきっと、うぬぼれちゃうよ?」
「いーんだよ、オレがそう言うんだから。それよりなぁ、、、あんま泣いてると襲っちまうぞ?」
「え・・・・・?・・・えぇっ?!」

数秒の空白のあと、椅子ごと倒れそうな勢いで引き下がり、ピッタリと背もたれにくっついた蘭は、ようやく頭の中で冷静な判断を下し始めた。
一応恋人同士なのだから、そういう関係になってもおかしくはない。こんな大邸宅に二人で住み、しかも今はこんな夜更けにパジャマ姿で二人きり、というシチュエーションだ。何かが起こっても不思議ではない。
そう、確かに不思議ではない。ついさっき垣間見た新一の寝顔に、ドキドキしてしまったことも認めるけれど、、、。
こんなときに、面と向かってそんなこと言われても、、、。



真っ赤になってフルスピードで頭の中を回転させている蘭の様子に耐えきれなくなって、ククッ、と押さえた笑いの後、次第にボリュームを上げていく新一の笑い声がキッチンに響き渡った。

「嘘だよ、嘘!」

まぁ、100%丸っきり嘘でもねぇけどな、という台詞は飲み込んで、「あー腹痛ぇ」とわざとらしくお腹を抱えて新一は笑い続けた。
「もうっ、新一のバカっ」と予想通りの言葉とともに飛び出してきた、軽く振り上げられた蘭の腕をあっさりと掴んで、新一はそのまま蘭を引き寄せた。

「あ、あの、、、新一?」
「この際言っておくけどな?あんまり夜中にチョロチョロしたりすんなよ?」
「・・・うん。今日、新一にいっぱい暖かい気持ちを貰ったから、もう大丈夫。もし、また夜中にお茶したくなったら、そのときは遠慮なく叩き起こしちゃうから。」
「バーロー。オレが言いたいのはな、なんつーか、その、つまり、、、オレも健全な19歳なわけだし、この先ちょっと、保証できねぇから、な。」

今夜は見逃してやるから、とっとと寝ろよ、と言い放って、新一はキッチンを後にした。



えっと、今の言葉を解釈すると、要するに、、、要するに、、、、、。


もう一杯、ラベンダーティを淹れ直すと、蘭は赤い顔のまま自室に向かった。




次のお茶会は、きっと二人で、ね。

そんなことを、ちらりと心の片隅に、書き留めながら。





数日後、久し振りに大学で園子に出くわした新一が突き付けられたのは、白い封筒がひとつ。
中身は、茶色いインクで印刷された、ペラペラに薄い紙の書類1枚のみ、だったりする。


― END ―



☆1周年プチ企画首謀者、MADOKA&花梨より皆様へ、感謝の気持ちを☆


今回、同時にサイト1周年、ということで、Paradise Gardenの花梨さんと合同でお祝いです(^^)
おめでとうー花梨ちゃんvvv
私は…正直、実感沸かないのですが。そんなに続いていたんだなぁ、なんて(笑)。
元々、「ひっそりまったり運営」なサイトだったのです。
今でも「まったり」は変わりません(笑)。
でも、特に最近は、色んな場所で、色んな方々と交流させてもらっています。
この1年間で、私にとっては何より嬉しいことなのです。
そんな素敵な機会を与えて下さった青山作品&原作者様と。
サイトを見に来てくださった方、そしてオンオフで遊んで下さる方、皆様へ。
ありがとうございますvvそして、これからもよろしくお願いしますvvv

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+++MsR MADOKA+++

偶然にもサイトのお誕生日が一緒の、MsR/MADOKAさんと一緒にお祝しちゃいますv
『1周年、良く維持できました!』記念です。←意外と根気があったのね、わたし(笑)。
サイトを始めた頃は、もう、ヒヤヒヤ、コソコソ。
1人でチマチマやってました。それが1年経過してみて、いろんな宝物が増えました。
やっぱり、一番の宝物は、こんな僻地なサイトに訪れてくださる皆さんとの出会い。
サイトデビューするには遅すぎる年齢の私だけど、それでも、やって良かったなと思ってます。
じゃなきゃ、こんなに素敵な出会いは訪れなかっただろうから。
ONでもOFFでも、お付き合いしてくださる皆様、どうも有難うv
そして、これからもどうぞ宜しくねっ!

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+++Paradise Garden 花梨+++


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