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Fic.


Missing piece

〜恋は勘違い〜



蘭とのデートに遅れること、連続3回。
その前に、デートそのものが流れてしまったのが、3回。
途中で抜け出したのが、2回。
映画の最中に眠ってしまったことは、数知れず。
・・・その他、何だかんだと言ってトラブル続出。

おまけにここ最近では、優秀な新一の頭脳を持ってしても、最初から最後まで予定通りに過ごせた記憶がないという状態である。
頭を捻って唸ってみても、「あれ?」と首を傾げることになってしまう。

(ま、本当の意味での「最後まで」っていうのは、一度も成功した例はないけど。)

などと毒づいてみても、虚しくなるだけ。
デートが上手くいかない理由の、実に100%が、所謂“自業自得”という代物。
全部、自分の都合ばかりを蘭に押し付けてしまっていた。
その都度、ときに笑顔で、ときに仕方ないわねと苦笑しながら。
蘭は、いつだって新一を受け止め、快く送り出してくれる。

(甘え過ぎてるよな、オレ。)

心の中では幾度も詫びながら、結局のところ、寛容な言葉と蘭の存在そのものに包み込まれている。
逆に、蘭からは新一に何も求めてこない。

新一からは、折に触れて「何か困ってることはないか?」とか「不満はないか?」とか、聞いてみたりもするのだが。
蘭からの答えは、決まって“No”だ。

それがアイツなりの、精一杯の優しい強がり。

でもなぁ、、、気付かないわけないだろう?
伊達に長い付き合いじゃないんだから、それくらいわかるってもんだ。

ただ、わかっているからこそ、そうまでして自分の夢を応援してくれる蘭の気持ちを、根底からひっくり返すような真似は出来やしない。
だから新一も、黙って蘭の頭をポンポンっと軽く撫でるだけ。
そして自然とお互いの瞳が交差し、次いで笑顔がこぼれて。

いつの間にか蘭のペースに巻き込まれ、何事もなかったかのように時は刻まれていく。

それでも、つい思い図ってしまう。
揺れる漆黒の瞳の奥底に、一体どれほどの感情を封じ込めているのだろうか、と。


いつの日か、そのすべてをオレに預けてくれる日が、来るのだろうか、と。



目の前に広げてみた自らの掌が、呆れるほどに頼りなくて。
新一は、強く、両手を握りしめた。


***


こんな日々を重ねるうちに、新一と蘭の間には世間で言うところの「デート」というもの自体が、なくなっていった。

だからと言って、全く会っていない訳でもない。
毎日ではないが、たまに父親である小五郎が仕事で家を空けるとき、蘭は「一人じゃ美味しくないから」と言って新一の家で夕食を共にしたり、小五郎の出張が長引くときは客間に泊まっていったりもする。
昨日の夜も、放課後すぐに飛び出して行った新一を、温かい手料理と笑顔で迎えてくれたのは、蘭だった。


いまだ高校生の身分である新一には、結果として警視庁で一夜を明かすことはあっても、最初から泊りがけになるような事件の依頼は来ない。その辺は、目暮警部あたりが上手く調節してくれているのだろう。
だが小五郎の場合、新一に比べれば見劣りはするものの、探偵としてのセンスそのものは悪くない。しかも「眠りの小五郎」として、今やすっかり全国区で顔と名前を知られているため、遠方からも依頼が舞い込むのだ。

そう、探偵として知名度が高いということは、つまり、身の回りに危険が潜む率も高いということ。

例え眉間に深い溝を刻んでみても、大事な娘の身の安全のためなら仕方ない。
と、蘭が工藤邸に泊まることは、小五郎も渋々承知している。
小五郎としても、別の意味での危険はあるにせよ、何の防衛対策も採っていない自宅に一人留守番させるよりはマシ、と思わざるを得ない。外部からの危機を回避出来る点においては、工藤邸のセキュリティシステムの堅牢さを認めているからだ。

(こんなんじゃ、クラスの連中に「夫婦」だの何だのって言われても、仕方ねぇな。)

小さな溜息と共に、新一は独り呟いた。
蘭を傷つけたり貶めたりするような言動をする輩は、誰であろうと断じて許さないが、その他の冷やかし文句については、もう何を言われようと野放しにすることに決めている。時には、公然と肯定することだってあるくらいだ。
そんな周囲の冷やかしよりも、新一が危惧しないといけないことは別にあった。

もし、何の進展も見られないまま、現状維持が続けば、、、
新一と蘭の関係は恋人の範囲を飛び越え、いきなり熟年夫婦の域に到達してしまうかもしれない。

遠い将来には、そうなっていればいいと思う。
でも、自分たちはまだ高校生で、恋人としての関係は幼馴染としてのそれに比べてごく僅か。
それなのに、いきなり熟年夫婦っていうのは、ちょっと虚しいだろう・・・?

ここまで思考を巡らせて、一旦、シャットアウトする。
携帯のアラームをセットし、少し離れた場所に置いた目覚まし時計で、念を押しておく。

明日は、久しぶりに蘭とのデート。
何があろうと、絶対に遅れるわけにはいかない。

日付が変わってから既にかなりの時間となっていたが、新一は逸る気持ちを抱えながら眠りに付いた。


***


そもそも、今回のデートは、新一が半ば無理やり実現させたようなものだった。

あれは、ゴールデンウィークに差し掛かった、ある日の夕食後。
食後のティータイムに入り、「もうすぐ新一の誕生日だね」と小さく微笑む目の前の天使に、新一は自らプレゼントを要求した。

「なぁに?自分から何か欲しがるなんて、珍しいわね?」
「悪いかよ?」
「そんなことないけど、新一って、物欲ないほうでしょ?だから。」
「そうだっけ?」
「うん、そう。期待に添えられるかどうかわからないけど、とにかく言ってみて?」

常日頃、蘭にはあれこれ無理を聞いてもらっているから、自分では我侭し放題だと思っていたのだが。
言われてみれば、これまでお互いに、直接的に「物」を欲しがったことはなかった。
二人にとっては、物では推し量ることの出来ない、もっと貴重で大切なものがあるから。

―――離れてみてやっとわかった、お互いの存在の大きさ。


ワクワクした気持ちを乗せた瞳に見上げられて、蘭の前でしか披露しない穏やかな微笑みで、新一の願いが告げられた。

「プレゼントっていうのとは、ちょっと違うかもしれないんだけどさ。・・・オレの誕生日に、蘭の願い事を叶えさせてほしい。」
「ちょっと待ってよ。それって立場が逆なんじゃないの?」

質問の意味がわからない、という風に蘭は小首を傾げている。
蘭の喜ぶ顔が見られたら、それがオレにとっては最高のプレゼントだから、と新一の解説が加えられて、蘭の大きな瞳は見る間に涙で輪郭が埋められていく。
蘭が「気持ちだけで十分よ」と丁重に押し返そうとしても、こういうところでは頑固な新一が折れるわけもなく。
このまま平行線を辿るうちに、ふとしたことで喧嘩に発展してしまっては意味がない。
長い幼馴染としての付き合いから得た経験で、どうにか日にちを誕生日の前日に替えてもらうと、蘭は素直に新一の言葉に従った。


そうだなぁ、と少し考え込んで、僅かに頬を染めた蘭の提案に、新一はノックダウンされてしまった。

「えーっとね、、、たまには、普通のデートっぽいことがしたい、な。」

などと、可愛らしいことを言ってくれるのである。
呆気にとられた新一が「たったそれだけ?」と訊ねれば、遠慮がちに「じゃあ、家まで迎えに来てもらっていい?」と、更に控え目なお願いが追加される。

オレのことをとやかく言う前に、今、自分がオレにリクエストした内容を考えてみて欲しい。
まったく、欲がないのにも程があるってもんだ。

思ったとおりの言葉を返すと、蘭から戻ってきたのは、また更に愛しさが倍増するような言葉だった。

「新一と一緒にいられたら、それで良いの。だって、これ以上に贅沢なことなんて、わたしにはないもの。」

こうなったら、もう、完全に新一の負けである。
あとは目一杯の誠意を込めて、精一杯の愛でもって応えるだけ。

「了解。オプションまで、バッチリ任せてくれよな?」
「うん。楽しみにしてるね♪」

素早く回転し始めた頭の中では、既に、蘭が喜びそうなプランニングの概要が出来つつあった。
肝心のオプションは、細心の注意を払って組み立てなければならない。
と、その前に。
まずは自分の身柄をフリーにするために、新一は関係各所に根回しすることから行動開始したのだった。


***


デート当日。朝8時。

携帯のアラームを1コールで解除して、手早く身支度を整える。
カーテンの隙間からは、勝ち誇ったような勢いの太陽が顔を覗かせており、終日の晴天を約束してくれているようだ。
そんな小さなことさえも嬉しくて、微妙に調子の外れた鼻歌まで飛び出す始末。


またひとつ、新一の脳裏に増えるであろう、大切な人の笑顔を思いつつ。
彼だけの太陽を目指して、新一は勢い良く玄関を飛び出した。


――― END ―――




・・・ああ、誕生日だというのに、不憫なヤツ。
でも、きっとこれからも、我が家ではこういう扱いを受けるんだろうなぁ。
とにかく「蘭ちゃんスキー」を公言している私ですが、ちゃんと新一のことも好きだからね?←蘭ちゃんの次に(^^;
改めまして、お誕生日おめでとう、新一!これからも『蘭ちゃんの為に頑張る君』を、応援していますv


【追記】
お誕生日記念(?)に、ほんの少しだけ上記のお話の続きもアップしていたのですが。
そちらは5/14までの限定ということで、引き下げました(そうすると、サブタイトルの意味合いが薄くなってしまうのですけどね)。
ご覧になった皆様が、ご気分を害していないか心配です。。。


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