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Fic.


Final piece

〜 終わらない言葉 〜



工藤邸のリビングの中央には、ローテーブルを囲むようにしてコの字型にソファが配置されている。
いつの頃からか、そこには無言のうちに、新一と蘭のそれぞれの定位置が決まっていた。
2人はごく自然に自分の場所に腰を下ろしている。
小五郎が仕事で留守にする日は、つまり2人にとっては大っぴらに一緒にいられる日。
今日もまたいつものように、蘭が淹れてくれたコーヒーを片手に、新一は夕食後のティータイムを楽しんでいた。
同じように、まだ湯気の立ち上るマグカップを手にして、自分用のティーオレに少しずつ口に運ぶ、蘭。


ふと重なった目線の先からは、柔らかい微笑が返ってくる。
言葉も何もない無音の空間で、繰り返される、手のひらサイズの幸せ。

去年の今頃は見上げていた瞳も、今は自分のほうが少し見下ろす感じになって。
こんなに小さな変化でさえ、2人の間に芽生えた新しい関係を象徴するような気がしてしまう。

一番大切だったから―――ただ、失うのが怖かった。

壊したくても、なかなか壊すことが出来ずにいた「幼馴染み」という看板に、ようやく堂々と追記された「恋人」という文字。
やっとのことで手にした、目の前の大切な人からたった一人だけに与えられるその称号に、新一は目眩がするくらいの幸福感を噛み締めていた。




突然、新一の正面に座っていた蘭が、身を乗り出して提言する。

「あのね、もうすぐわたしの誕生日なんだけど、、、」
「ん?ああ、今度の土曜日だよな。ちゃんと覚えてるって。」

心配すんなよ、という風に、腕を伸ばしてすべらかな蘭の頬に触れる。
最初はピクッと身を強張らせかけた蘭は、新一の手のひらの温もりに安心したのか、そのままの状態で言葉を繋げた。

「うん。それでね、わたしも新一みたいにリクエストしていいかな?」

暫し瞬いた新一は、つい先日、新一が蘭に誕生日のプレゼントを請求したとき言われた言葉を、チラッと思い出して苦笑する。
「新一って物欲ないほうでしょ」などと言った蘭本人のほうが、天使も降参するほどに物欲とは無縁なのに。

「蘭のほうから何か欲しがるなんて、相当珍しいんじゃねえか?」
「お互い様よ。」

やんわりと新一の手を押し返し、蘭がちょこんと元の位置に座る。
次に蘭が何を言い出すのか粗方見当の付いた新一は、一足先に考え込む仕草を見せた。
うーん、とわざとらしく唸っている肩口で、どうしてわかっちゃうんだろう、などと可愛い呟きが重ねられる。

10日しか違わない、お互いの誕生日。
新一が自分の誕生日に蘭の願いを叶えてやったのならば、律儀な蘭はそのお返しにと、今度は新一の願いを聞いてくれることだろう。
これはもう推理というよりは、むしろ当然の成り行き。
そう。
現在、自らのおねだりを遂行する間にここまでの展開を読んでいた、新一の計画通りに話が進んでいるのであった。

新一の白い企みに、そうとは知らない蘭は的外れな牽制球を投げてくる。

「言っとくけど、ご飯作ってくれ、とかそういうのはナシだからね?」
「、、ったく、オレのキャラ、誰かと取り違えてないか?」
「長年付き合ってきた経験値から、導き出した結果だもん。」

蘭のくすくす笑いにつられて揺れるティーオレが、こぼれてしまわないように。
そっと奪い取ったマグカップをテーブルの隅に追いやり、新一は空いたほうの手でひと回り小さな手を預かって、隙間を空けたソファへと優雅な身のこなしで蘭を誘う。
驚きつつも、蘭は素直に新一に引き寄せられてしまった。

そのまま新一の腕の中に閉じ込められて、蘭は落ち着きなく目線を泳がせた。
日常のやり取りの中では、蘭のほうからじゃれるように腕を絡めたり、そっと手を繋いだりすることもある。だがこの手のシチュエーションではとにかく照れてしまって、どう反応すればいいのかよく分からないのだ。
長すぎた「幼馴染」という絆が、蘭の中に戸惑いを芽生えさせているのかもしれない。
勿論、嫌じゃないから、逃げ出したりはしないのだが。

新一の腕の中は、この世の何よりも、誰よりも、温かくて安心できる。
やっと手に入れた、蘭だけの居場所。

少しだけ戸惑って、寄り添うようにそっと背中を新一に預けてみると、小さく吹き出した新一が意地悪そうにも取れる笑みを交えて呟いた。

「今更、何遠慮してんだよ?コナンのときは、オメーのほうからくっついてきてくれたのに?」
「だ、だって、あれはっ、、、不可抗力みたいなものじゃない!コナン君が新一だって最初からわかってたら、あんなことしなかったわよ!」

慌てふためいてもがき始める蘭を、新一はいとも簡単に大人しくさせた。
それまでのふざけた雰囲気とはガラリと変わった、新一の真摯な眼差しに飲み込まれた蘭が、動けなくなったというほうが正しいのかもしれない。

「・・・新一?」
「リクエストにお応えして、オレからの願い事を言わせてもらうぜ?」

新一の腕の中で小さく頷き、新一と向かい合うようにそのままくるりと反転して、次の言葉を待った。

「これからもずっと、蘭の隣で、蘭の誕生日を祝いたい。」
「え?そんなの、今までだってお祝いしてくれてたじゃない?」

今更何を言ってるのよ、という予想通りな蘭の反応に、少しだけ肩を落とした新一が決定打を放つ。

「あのなぁ、、、もうちょっと行間を読んでくれよな?」

言い終えるのとピッタリ同じタイミングで、冷たい感触が蘭の指に伝わる。
蘭の瞳と左の薬指は、それぞれキラリと輝くもので飾られていた。
淡い緑の煌めきは、蘭の心を新一の意図へと間違いなく導いていく。

「ちょっと早いけど、Happy Birthday、蘭。」

きゅっと新一にしがみついて有難うを繰り返す蘭を、新一はただ優しく抱きしめた。


ずっとずっと、蘭の隣で。
これからも、君の幸せを願っていく。

そこが、誰にも譲れない、新一の居場所。


――― END ―――




Happy Birthday dear 蘭ちゃん☆(そして、我が姪っ子ちゃんもv)
新一BD用の小話の続き、のようなイメージで書いてみました。
実はこれ、微妙に「プロポーズ大作戦」だったりするのですが、、、上手く伝わったでしょうか?
ぼやかし過ぎて、わかりにくいかもですが(滝汗)。

あ。今回はおまけも何もありませんからねっ!


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