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ever after

〜 蘭ちゃんBD記念 〜


カーテンの隙間から、サンルームに柔らかい日差しが差し込んでいる。
丸い小さなテーブルを挟んで、繊細なアーチを描く背もたれの椅子が2脚。
そこには、椅子に座ったまま微動だにしない蘭と、同じように向かい合って座っている新一。
長めの前髪が日差しに溶け込み、新一の形良い頭部を縁取っている。
探るように傾けてくる視線がやけに眩しくて、蘭は正面を向いていられない。

震える唇を何とか動かして。
心の中に溜め込んでいた言葉を、気持ちを、今、風に乗せて、、、


わたし。
わたしね。

新一のことが・・・










「どうかした?」

ハッとして顔を上げると、蘭の目の前には心配そうな瞳。
見上げてくるその眼差しが、すべては夢物語なのだと蘭に自覚させてくれた。
低い位置の食卓。畳の匂い。
一番良く見慣れている、生まれ育った自宅の居間。
机に突っ伏した姿勢のまま、自分が現在置かれている状況を思い返してみる。
確か、テレビを見ながらウトウトしてしまって。。。

小さな伸びと共に漏れた欠伸だけが、部屋の隅々にまで響き渡っていく。
点けっ放しだったはずのテレビは既に沈黙していた。きっとこの心配性な彼が、消してくれたのだろう。

「随分疲れてるみたいだけど、大丈夫?」

顔を覗きこまれるように言われて、一瞬、心臓が跳ねる。
どうやら思ったよりも長く転寝をしていたらしい。ちょっとだけ、首筋が痛む。

不自然にならないように笑顔を見せながら。
大丈夫よ、と時計を確認する振りをして、そっと目線を外した。
あと数分で日付が変わる。
時間は万人に平等だというけれど、今日だけはそうは思えない。
あと数分で、、、蘭はひとつ年を重ねる。


幼馴染のホームズフリークとは、ちょうど10日違いの誕生日。
なんだかんだ言って、今までずっと、毎年欠かさずにお祝いし合ってきた。
それはこの先もずっと続いていくのだと、今から思えば確証は何もなかったのに、信じて疑わなかった。
けれども、今年は電話越しにお祝いの言葉を伝えただけ。
プレゼントを渡すことも叶わない―――居場所さえも分からないのだから。

直接、顔を見て「おめでとう」って言ってあげたかった。
それから、もうひとつの、大切な言葉を贈りたかった。

一体、いつになったら伝えられる・・・?





思い通りに動いてくれなかった唇に、そっと指を這わせて。
蘭は無意識に溜め息を落としていた。


夢の中でも、言い出せなかった。
自分に素直になれなかった。



ふっ、と吐息だけの笑みをこぼして、目線を戻す。
先程から痛いくらいに向けられているのは、小さなナイトからの過保護なまでの心配。
それを振り切るべく、大丈夫だからと言って頭を撫でてやると、ごくわずかにムッとした表情を浮かべる。
年相応の扱いを受けるたびに、妙に大人びたこの少年は、ときどきこんな風に苦味のある顔をするのだ。
それはまるで、どこかの空の下にいる誰かさんと同じ顔。



気持ちの上では、まだ夢と現実がごちゃ混ぜになっているのかもしれない。
光の中で優しく見つめ返してくれた眩しい笑顔が、フラッシュバックしてしまう。
・・・今、あなたに見つめられるのは、ちょっとだけ辛いよ。


「もしかして、、、泣いてた?」

たっぷりと瞬きをして呼吸を整えてから、蘭は声の主を振り返った。
まったく。
この小さな名探偵さんは、容赦がないなぁ。

実際には涙もこぼしていないのに、どうして泣いていたと思うんだろう?
どうして泣いていたと・・・わたしの心が・・・分かるんだろう?

幼い顔には似合わない、眼鏡越しに凛とした輝きを放っている瞳の前では、なにもかも見透かされそうで。
今は直視できない。

「具合、悪いの?風邪引いちゃったんじゃない?」

心配の芽を刈り取ろうと、コナンは新たな質問の矢を放つ。
あまりに真剣な表情で見上げられて、コナン君には弱いところばかり見られちゃってるな、と蘭の表情は苦笑で滲んでいく。

「な、なんでもないのよ。ちょっと転寝しちゃっただけだから。気にしないで。」
「ちゃんとお部屋で寝たほうがいいよ。ね?」
「うん、わかった。でも、コナン君も早く寝なくちゃ。もうこんな時間なんだし。」
「蘭姉ちゃんが先だよ。じゃなきゃ、ボクも寝ない。」

わかったわ、とよろよろと立ち上がり、蘭は自室のドアに向かって手を伸ばす。
後に付いてきたコナンは、半分閉じたドアの隙間から遠慮がちに、蘭がきちんとベッドに横になるかどうか見守っている。
変なところで強情なのも、それが優しさの裏返しなのも、アイツにそっくり。

複雑に絡み合う感情がもつれて、蘭の中で交錯している。
とりあえず、できる限りの笑顔を浮かべて「おやすみなさい」と呟き、気遣うような視線にカチリと目を合わせた途端―――。
蘭は再び心臓が跳ねる音を聞いた。

「今夜は良い夢を見てね、蘭姉ちゃん。」
「有難う、コナン君。」

振り向きざまにそう言ったコナン君の表情は、やっぱりアイツにそっくりで。
有難うって言うのがこんなに難しいと思ったのは、初めてだと蘭は思った。

パタン、とドアが閉じるのとほぼ同時に、日付が変わった。
そして間髪置かずに、枕元の携帯電話が特別なメロディを奏でる。

どこかの空の下にいる、アイツ専用のメロディが。

「ハッピーバースディ、蘭。」
「有難う、新一。」

今日一番に貰った言葉が、新一からで嬉しい。
今日一番に伝えた言葉が、有難うで良かった。

とても短いバースディコールは、あっけない程にアッサリしていたけれど。
きっと今夜は良い夢を見られると思う。


今はまだ、夢の中だけでもいいから。
受け取ってください。

ありのままの、わたしの気持ちを。


――― END ―――




今年も勝手に、5/14を蘭ちゃんBDとしてお祝いv>毎度有難うございます、Mきさん
だがしかし。折角のハピバ記念の小話だというのに、、、あんまりお祝いモードじゃないお話になってしまって、ゴメンよ、蘭ちゃん(><)
今年の新一BD小話に、少し影響されちゃったかもしれない。(でも、このお話の蘭ちゃんは「新一=コナン」だと思ってないんですけどね。)

とにかく。「蘭ちゃんおめでとう」な気持ちだけは込めてますので!
Happy Birthday dear 蘭ちゃんvvv


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