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angel of spring


〜 君を思う、春 〜



宿題も無い春休みは、どこと無く気が抜けてしまいがち。
ここで普通の学生ならば、手放しで喜び、遊び呆けることだろう。
しかし、普段から家事と学業と部活、それに加えて幼馴染の面倒まで見てきた蘭にとっては、逆に手持ち無沙汰な気持ちさえしてしまうのだ。

さてと。
今日のように部活もなく、かといって誰とも約束していない日は、持て余し気味なこの時間をどう過ごすべきなのだろうか。


もう随分とやわらかくなってきた、午後の日差し。
鼻先をツンとかすめる、凛とした冬の面影はすっかり薄れ、今朝から干している布団も、いい具合にふかふかだ。

取り込んだ布団一式を各自の部屋へ運び込み、元通りにベッドメイキングする。
今日からは、春用の、明るいパステルカラーのシーツに衣替え。
ピンと張ったシーツに満足して、清々しいまでの空気に背伸びをすると、蘭は開け放った窓から空を見上げた。

そよそよと、頬にかかる風が心地良い。
もっと耳を澄ませば、草木の芽吹く音まで、聞こえてきそうな気がする。

窓枠に頬杖を突き、瞳を閉じて、しばし自然の音色を感じていると。
キーン、とわずかに金属音がしたような気がして、何となくその方角を向いてみた。

「う、わあっ、、、。」

傾いてきた太陽が、そろそろ薄紅色の衣をまとおうか、という時間帯。
一体どこへ向かっているのか、1機の飛行機が、きらめく宵の太陽を背に受けて上昇しているところだった。
大空のキャンバスに記されていく、白い一筆書き。
それが徐々に、夕陽のオレンジに染まっていくその光景は、ただひたすらに美しく。

大空が創り出した魔法に驚いて、蘭の口からは、感嘆の言葉しか出てこなかった。


ふと目線を室内に戻せば、目に付いたのは、机の上に置いたままの携帯電話。
すぐさま手にして窓際に戻り、メモリーの一番上の番号を表示させた。

番号を教えてもらってから、まだ数えるほどしか電話したことは無いけれど。
でも、メールだったら、この素敵な偶然には、間に合わないかもしれない。

(こんなことで電話したら、怒られちゃうかな?)

と思い、一瞬だけためらって。
それでもやっぱり、少しだけでもいいから。
ほんの束の間の、この感動を分かち合いたいな、と思って。

通話ボタンを押そうとした瞬間。


Pi Pi Pi Pi Pi Pi




一番大事な人の名前が、蘭の掌の中で、チカチカと瞬いていた。





淡い残像を残したままの飛行機雲は、すぐに溶けてなくなってしまったけれど。
お互いの声を聞きながら過ごす春の夕暮れは、格別なものとして、蘭の中に蓄積されていく。


あなたがそばにいないのは、とても心配で辛くて、寂しいけれど。
でも、有難う。新一。


今までのわたしだったら、気が付かなかったかもしれない。
同じものを、同じときに共有できることの幸せを。

今日は何だか、素敵な偶然が重なる日。
春の息吹と大空の奇跡にも感謝して。

蘭は、心の中の深いところに、そっと温かい気持ちをしまい込んだ。


− End −




ちなみにですが。"angel of spring"とは「春の先触れ」という意味です。
春は映画もあることですし、まさにコナンの季節ですよね。
今年の映画は残念ながら、私は見られないかもしれないのですが、魂だけでも
皆さんと一緒に盛り上がろうと思っています。

実はこのお話に出てきた空、2年ほど前に偶然に目撃したもの。
今でも写真のように、あのときの空が私の記憶の中に存在しています。
(ただ、手元にある写真がいまいちで、加工してみたけど汚くなってしまったわー/号泣)

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