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〜 ordinary day's work 〜 朝日とおはようと笑顔 コン、コン、コン。 控えめなノックが、3回。 工藤邸のドアはどれも重厚で、部屋の外からではなかなか声が伝わらない。 だから、部屋の主の返事を待たずして、そうっと開かれる扉の音。 なるべく音を出さないように、細心の注意を払って。 「・・・・・・新一、いる?」 「おぅ」 上半身だけを遠慮がちにドアの隙間から覗かせて、蘭は声を掛ける。 机に寄り掛かり、書類か何かのように見える分厚い紙の束に目を通していた新一は、顔を上げて蘭のほうに向き直った。 トントン、と紙の束を両手でまとめながらも、「どうした?」と瞳で蘭に問い掛けてくる。 「忙しいところ、ゴメンね?少し・・・5分で良いんだけど、ちょっと時間くれる?」 構わないよ、と立ち上がり、エプロンを身につけたままの蘭に手招きされて廊下を進む。 行き着いた先は、キッチン。 ダイニングテーブルの上には、ティーカップ&ソーサーが3客、マグカップが2つ並べられていた。 「どうしたんだよ、こんなにたくさん。誰か来るのか?」 新一がそう訊ねるのも、無理はない。 この場にいるのは、新一と蘭の2人だけ。 しかし、用意されたカップは全部で5人分。数が合わない。 「違うのよ。ちょっとした予行演習をしておこうかな、と思って」 蘭は、前に話したでしょ、とエプロンのポケットに入れていたチラシを広げて、新一に差し出した。 今週末おこなわれる大学の学園祭で、蘭の所属する空手部の担当は喫茶店。 どうやら蘭は、そこで出すドリンクメニューを考えていたらしい。 ここ数日、自分なりにリサーチしたり、雑誌とにらめっこしたり・・・を繰り返していた。 お湯を沸かしながら、戸棚にある紅茶缶をいくつか取り出す蘭。 それでね、と振り向きざまに口を開く。 「1人で練習してたんだけど、自分で入れた紅茶の味って良く分からなくて。だから、新一にアドバイスして欲しいの」 「ようするに、オレに味見をしろ、と?」 「うん。ダメかな?」 返事を伺うように、ちょこんと小首を傾げる蘭。 そんな可愛い表情でお願いされて、断る男なんて誰もいないだろ?という胸の内は押さえ込んで、新一は「了解」と快諾した。 アッサム、セイロン、ダージリン、アールグレイ。 小さくスライスしたフルーツや、ミルクをプラス。 三温糖、蜂蜜、メイプルシロップ・・・お好みで、甘みも少々。 手鍋で煮出してミルクを加え、スパイスを入れてみる。 これだけでも、何通りもの紅茶が楽しめる。 全部飲みきるのは流石に無理なので、新一は味わう程度で次々と出される紅茶を試していく。 その都度、メモ帳を片手にした蘭は「どう?美味しい?」と問う。 そして、新一は「ああ、美味いよ」と答える。 こっちは少し濃い目に淹れてみたの、と蘭がひと言添えても、新一からの回答は同じ。 ただ「美味いよ」という。 数杯目の試飲が済んだとき。 ふぅ、と小さく溜め息をつき、蘭は茶器を操る手を止めて言った。 「もう、真剣にやってよね。どれを飲んでも、全部『美味い』だけじゃない」 「しょうがないだろ、ホントに全部美味いんだから」 「一番美味しいやつをメニューに載せようと思ったのに。これじゃ、参考にならないよ」 「あのなぁ、、、紅茶なんてもんは、温度と茶葉の量とタイミングさえ間違えなければ、誰でもそれなりのもんは淹れられるんだよ」 それよりも、と一旦言葉を区切って、新一は言う。 「蘭は、何を考えながら、紅茶を淹れてた?」 「・・・ただ、新一が美味しいって思ってくれるかなぁ、って。それだけよ」 「なんだ、わかってんじゃん」 「え?」 「難しいことなんて、なんもない。美味しくなれ、と思って淹れた紅茶は、おのずと美味しくなるものなんだ」 「そう、かなぁ?」 「そゆこと」 いまいち自信がなさそうな蘭に、優雅な手つきでティーカップを持ち上げる新一は、まばたきくらいに自然なウィンクで喝を入れてやる。 ポッと赤くなった蘭の頬は、誉められて照れたのか、それとも・・・ 少なくとも、今後の朝の紅茶のレパートリーには、困らなくなった蘭なのでした。 ― END ― |
今年の11月1日―――紅茶の日は、あまりに時間がなくてですね、お粗末さまでゴザイマス。 我が家の単独記念日でもあるのに・・・嗚呼、ちょこっと不完全燃焼だわ(^^; ほんの少しでも、楽しんでいただけたら嬉しいです。 2007/Nov./01 Back to Tea Party → ■ |
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