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Tea Party 7


〜 ordinary day's work 〜

朝日とおはようと笑顔




コン、コン、コン。

控えめなノックが、3回。
工藤邸のドアはどれも重厚で、部屋の外からではなかなか声が伝わらない。
だから、部屋の主の返事を待たずして、そうっと開かれる扉の音。
なるべく音を出さないように、細心の注意を払って。

「・・・・・・新一、いる?」
「おぅ」

上半身だけを遠慮がちにドアの隙間から覗かせて、蘭は声を掛ける。
机に寄り掛かり、書類か何かのように見える分厚い紙の束に目を通していた新一は、顔を上げて蘭のほうに向き直った。
トントン、と紙の束を両手でまとめながらも、「どうした?」と瞳で蘭に問い掛けてくる。

「忙しいところ、ゴメンね?少し・・・5分で良いんだけど、ちょっと時間くれる?」

構わないよ、と立ち上がり、エプロンを身につけたままの蘭に手招きされて廊下を進む。
行き着いた先は、キッチン。
ダイニングテーブルの上には、ティーカップ&ソーサーが3客、マグカップが2つ並べられていた。

「どうしたんだよ、こんなにたくさん。誰か来るのか?」

新一がそう訊ねるのも、無理はない。
この場にいるのは、新一と蘭の2人だけ。
しかし、用意されたカップは全部で5人分。数が合わない。

「違うのよ。ちょっとした予行演習をしておこうかな、と思って」

蘭は、前に話したでしょ、とエプロンのポケットに入れていたチラシを広げて、新一に差し出した。
今週末おこなわれる大学の学園祭で、蘭の所属する空手部の担当は喫茶店。
どうやら蘭は、そこで出すドリンクメニューを考えていたらしい。
ここ数日、自分なりにリサーチしたり、雑誌とにらめっこしたり・・・を繰り返していた。
お湯を沸かしながら、戸棚にある紅茶缶をいくつか取り出す蘭。
それでね、と振り向きざまに口を開く。

「1人で練習してたんだけど、自分で入れた紅茶の味って良く分からなくて。だから、新一にアドバイスして欲しいの」
「ようするに、オレに味見をしろ、と?」
「うん。ダメかな?」

返事を伺うように、ちょこんと小首を傾げる蘭。
そんな可愛い表情でお願いされて、断る男なんて誰もいないだろ?という胸の内は押さえ込んで、新一は「了解」と快諾した。

アッサム、セイロン、ダージリン、アールグレイ。
小さくスライスしたフルーツや、ミルクをプラス。
三温糖、蜂蜜、メイプルシロップ・・・お好みで、甘みも少々。
手鍋で煮出してミルクを加え、スパイスを入れてみる。

これだけでも、何通りもの紅茶が楽しめる。
全部飲みきるのは流石に無理なので、新一は味わう程度で次々と出される紅茶を試していく。
その都度、メモ帳を片手にした蘭は「どう?美味しい?」と問う。
そして、新一は「ああ、美味いよ」と答える。

こっちは少し濃い目に淹れてみたの、と蘭がひと言添えても、新一からの回答は同じ。
ただ「美味いよ」という。

数杯目の試飲が済んだとき。
ふぅ、と小さく溜め息をつき、蘭は茶器を操る手を止めて言った。

「もう、真剣にやってよね。どれを飲んでも、全部『美味い』だけじゃない」
「しょうがないだろ、ホントに全部美味いんだから」
「一番美味しいやつをメニューに載せようと思ったのに。これじゃ、参考にならないよ」
「あのなぁ、、、紅茶なんてもんは、温度と茶葉の量とタイミングさえ間違えなければ、誰でもそれなりのもんは淹れられるんだよ」

それよりも、と一旦言葉を区切って、新一は言う。

「蘭は、何を考えながら、紅茶を淹れてた?」
「・・・ただ、新一が美味しいって思ってくれるかなぁ、って。それだけよ」
「なんだ、わかってんじゃん」
「え?」
「難しいことなんて、なんもない。美味しくなれ、と思って淹れた紅茶は、おのずと美味しくなるものなんだ」
「そう、かなぁ?」
「そゆこと」

いまいち自信がなさそうな蘭に、優雅な手つきでティーカップを持ち上げる新一は、まばたきくらいに自然なウィンクで喝を入れてやる。
ポッと赤くなった蘭の頬は、誉められて照れたのか、それとも・・・

少なくとも、今後の朝の紅茶のレパートリーには、困らなくなった蘭なのでした。


― END ―


今年の11月1日―――紅茶の日は、あまりに時間がなくてですね、お粗末さまでゴザイマス。
我が家の単独記念日でもあるのに・・・嗚呼、ちょこっと不完全燃焼だわ(^^;
ほんの少しでも、楽しんでいただけたら嬉しいです。

2007/Nov./01

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