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Tea Party 8


〜 3 pieces of happiness 〜

永遠の未完成 part 1




午後3時のティータイム。
テーブル上には、いつものようにコロンと丸く白い、陶器製のティーポット。
しかし、添えられているのは、いつものように親指と人差し指でつまみ上げられるような、繊細なティーカップではない。
どっしりとしたマグカップに、半量分の紅茶が注がれる。
どうやら今日は、ティー・オレを楽しむ模様。
たっぷりのミルクで味わうために、ミルクピッチャーではなく、紙パックに入ったままの牛乳がテーブル上に鎮座しているのが、何よりの証拠。
真夏なら眉をひそめる行為だが、11月ともなれば少々の時間なら特に問題は無い。

紅茶本来の味を楽しむために、とひと口目はストレートで。
口に含んで、ゆっくりと飲み込む。

「・・・あれ?これ、もしかして新しい茶葉か?」
「わかるの?」

ひと回り小振りのマグカップを手に、さすが新一、と微笑む蘭。
思い人が「違いのわかる男」であることが、嬉しいらしい。

シャーロック・ホームズ誕生の地、英国といえば紅茶。
当然の如く、新一も紅茶にはこだわりがあり、並以上の知識を持っている。
蘭は自らのカップにミルクをとぽとぽ入れていく。
そして、和葉ちゃんが送ってくれたの、と一旦席を立った彼女が手にしているのは、茶色いクラフト紙のパッケージ。
茶葉の風味が損なわれないよう、密栓可能なジッパーが付いている。
淡いピンク色のラベルには、ティーバッグと書いてあった。
新一は、カップ内の水色(すいしょく)に目を落とし、鼻腔を通り抜ける淡い香りに感心して頷いた。

「へぇ。これ、ティーバッグなんだ。意外と美味いな」

ティーバッグとはいえ、一般的には「ピラミッド型」といわれる三角錐状のメッシュに茶葉が入っているタイプで、スーパーの特売で売っている商品とは格段に味が違う。
ピラミッド空間の中で茶葉が程良く踊り、茶葉で淹れたのと遜色ない風味が引き出されるのだ。
同様のティーバッグは他にもあるが、味、香り、双方において、今飲んでいるものが一番納得がいくレベルだと新一には感じられた。
思ったままの感想を言葉にすると、わたしも、と同意の声が上がる。

送り主・和葉の話では、大阪にある紅茶専門店が出しているもの、だという。
そこは、紅茶党の間では知らない人はいない、と断言できるほどの有名店。
紅茶とともに提供されるスウィーツ類も極上で、他府県からの来訪者も少なくないらしい。
だが、主要駅から徒歩10分以上は離れている上、日曜祝日は休みという条件の所為で、今まで何度も大阪を訪れている蘭を案内する機会が作れなかったそうだ。
また、互いの思い人が揃うと何故か事件遭遇率がほぼ100%となり、結局観光どころではなくなってしまうのも、理由のひとつとして数えられる。
その点は新一も否定できず、ははは、と頭を掻くしかない。

ということで。

「今週末、遊びに行ってみようかと思ってるんだけど」
「それだけのために、わざわざ大阪まで?」

甘い物は好きだし、食べもするし、紅茶も好きな新一だが。
わざわざ飛行機や新幹線を使ってまで食べに行く、という心理は新一には納得し難い。
これも、所謂「乙女心」の範疇なのだろうか?
頭の隅のほうでアレコレ考えてみても、乙女ではない新一に理解できるわけもなく。
文字通りに、首を傾げるばかり。
「勿論それだけじゃないよ」という蘭に、続きを促した。

「旅行には最適な季節だし、折角だから、神戸にも足を伸ばしてみようかなって」
「確か服部のヤツ、ここ暫くは事件の後処理で身動き取れないらしいぞ。大丈夫か?」
「平気よ。和葉ちゃんがいるもん」

だから危ねーんだよ、という新一の胸中は、きっと蘭には通じないのだろう。
蘭と和葉、2人が連れ立って街中を歩けは、どうなることか。
たとえば、材料を見なくとも、自信を持って夕食の献立を言い当てられそうだ。
新一から見ると、蘭も和葉も似た者同士というか、なんというか。
2人とも並の男よりも腕が立つことを自覚しているが、時としてそれが災いとなることには自覚がないようだ。
・・・・・・服部も苦労が絶えねーな、と思わず零したくなるのを、ぐっと堪えて。
代わりに、ふぅ、と小さく吐いた溜め息に、蘭の表情がわずかに曇る。

「・・・行くの、反対?」
「そういうわけじゃねーけど、随分急な話だと思ってさ。ホテルとかどうすんだよ?」
「和葉ちゃんが、お家に泊めてくれるんだって。で、一番都合がいいのが今週末だって言うから、決めちゃったの」
「でもほら、大阪まで1人きりだと退屈すんだろ?」
「ご心配なく、園子も一緒よ。あ、もしかして、新一も一緒に行きたかった?しばらく忙しいって聞いてたから、あえて誘わなかったんだけど」
「・・・いや、いい。遠慮しとく。たまには女同士で、楽しんでこいよ」
「うん。じゃあ、お土産買って来るね!」

有難う、と満面の笑みで返されては、新一は何も言えなくなる。
もし蘭が「1人で行く」と言えば、即座に「一緒に行く」と言っただろう。
しかし園子が一緒となれば、話は別。
どこまで本気で冗談かわからない、園子のマシンガントーク(主に新一をからかうための常套手段)には、付き合いきれないからだ。
それにきっと、園子ならある種の・・・新一や平次が心配する方面の・・・用心棒としては適任だろう、と思った。
勿論これは、新一としても、信頼しているからこそ辿り付いた思考であって、悪意も他意もない。
もっとも、正直に話しても本人達はきっと曲解してくるだろうから、絶対に言わないが。



当日。
朝、新一は「気をつけてな」と蘭を送り出すのが精一杯だった。



* * * * *



新幹線は一路、西を目指す。
車窓から流れる景色を眺めつつ、蘭と園子は既にお喋りの花を咲かせていた。

「蘭と2人きりで旅行なんて、今までにあったっけ?」
「学校帰りに寄り道とかは沢山したけど、そういえば、ちゃんとした旅行は初めてかもね」
「うんうん、いっつもオマケがくっついてきてたからねぇ」
「オマケって・・・」

園子の言わんとするところがわかって、蘭はポッと頬を染めた。
「日本警察の救世主」などと称される工藤新一を、悪びれるでもなく、堂々とオマケ扱いできるのは、園子くらいだろう。
実は昨夜、そのオマケから直々に「蘭のこと頼んだぞ」とホットラインが入ったことは、伏せておいてあげるわよ、と園子はほくそ笑んだ。
自分自身が笑われたと勘違いした蘭は、笑わないでよ、と更に頬を赤らめる。

オマケが正式に恋人へと昇格した今でも。
2人の一部始終を把握している大親友の前でも。
新一の話題となると、蘭は相変わらず頬を染め、照れる。
園子が、何度も何度も「新一くんの彼女は蘭なんだから」と言って聞かせても、足りないらしい。
それは彼氏のほうも同じで。
だからこそ、からかい甲斐もあるのだが。




「園子?どうかしたの」

1人回想に耽り、急に黙り込んだ園子を、蘭が心配そうに覗き込んだ。
パッチリとした大きな瞳は、吸い込まれそうに深く、温かい。
これぞまさに「目は口ほどに物を言う」ということなのだろう、と改めて園子は実感した。
ひたむきに、まっすぐに、想いを紡いできた。
その強さが、ハッキリと浮かんでいる。

「ほら、あれって富士山じゃない?」

茶色のストレートボブを揺らして、園子は窓の外を指差した。
突然の話題変換に、蘭はほんの一瞬だけまばたきしたが。
釣られて車窓に目を向けると、優美なラインが視界に入ってくる。

「今日はいいお天気だから、ハッキリ見えるね。なんだか感動しちゃうな」
「うんうん、さっすが日本一の山!あ、写メ撮ろうっと」

慌てて鞄を探る園子に続いて、蘭も携帯を構える。
車体の揺れのせいで、満足度100%の写真は撮れなかったが、それでも十分に旅の記念になる。
互いに撮った写真を見せ合ったり、大阪で待っている和葉にメールを送ったり。
毎日のように会っているのに、お喋りの花は枯れることを知らない。

2時間半の移動経路は、あっという間に過ぎていった。



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今年も11月1日、紅茶の日がやってきました。
我が家の新一と蘭ちゃんには、毎年、手を変え品を変え、いろんな紅茶を飲んでもらいました。
今年はお手軽に、ティーバッグで。でも、意外と侮れないのよ?

それにしても、この日にアップする小話は「紅茶に絡める」のが大前提なのですが、私自身の手駒が少なく、窮地に。
そこで、某方からチラッといただいたご提案は、後半に入れますね、と。
お付き合いいただければ嬉しいですv

2008/Nov./01

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