This page is written in Japanese.


Tea Party 11


〜 Strawberry Syndrome 〜




最近気付いたというか 目に付くようになったというか
今まで思っていた以上に 蘭はイチゴが好きらしい

レモン オレンジ イチゴ メロン
頂き物の色とりどりのキャンディーをテーブルに広げて
「どれにしようかなー?」と歌うように指先を行ったり来たり
素知らぬ振りをしつつ 目線だけ向けて見守っていると
ひと粒手のひらに乗せては 小首を傾げて
また別のフレーバーに手を伸ばしたかと思えば 腕を組んで
散々迷った挙げ句 蘭が最後に摘み上げたのは イチゴ
一緒に入ったカフェでも 選んだのは季節のお勧めじゃなくて
年中見かけるような イチゴのショートケーキ
「紅茶が切れてたよね」と 馴染みの店で茶葉を選ぶときも
定番のストレートティを数種類と イチゴのフレーバーティ
買い出しの荷物持ちでお供した いつもの商店街でも
プラスチックの容器に整列している 赤い粒に目が止まった瞬間
一気に晴れやかな顔になって すごく嬉しそうにしている
その横顔は どこか懐かしいものを見つけたようにも見えて
新一の目線も意識も 丸ごと全部引きつけられてしまう
ちょっと恥ずかしそうに 「買ってもいい?」と見上げられたら
OK以外の返事なんて 思い浮かぶはずもない
その笑顔 反則だろ

向けられた大粒の瞳は 気を抜けば吸い込まれそうだし
ちょっと照れた薄紅の頬と さらりと揺れる深い色の髪が
絶妙なコントラスで 新一の深いところを真っ直ぐ射抜く
まだ旬じゃないから 正直 味はいまいちだろうけど
一番美味しそうなパックを選び 買い物かごに入れてやると
蘭の笑顔がゆっくりと花開いて こっちまで笑顔になる
「イチゴ、好きだよな?」と聞けば 本人の自覚はないらしい

指を折りながら例を示すと 一瞬だけ驚いた顔になって
すぐにふんわりと 蘭の笑顔が満開になる
「ちゃんと見ていてくれてるんだね」と 意外そうに言われて
「当然だろ」と 自信たっぷりに主張すれば
嬉しいなぁって笑ってくれるから こっちまで嬉しくなる
手を繋いだ帰り道 夕日に伸びた影に向かって思う

いつまでもいつまでも 蘭のことだけ見て過ごせたらいい
ずっとそう思って 願ってきたのに
残念ながら まだ伝え切れていないのかな?
どんなに どれくらい オレが蘭のことを好きなのか
いや そもそも最初から無理な話なのかもしれない
今この一瞬も 明日も明後日も 命ある限りずっと
蘭を想う気持ちは どんどん増え続けていく
あふれて こぼれて おぼれて それから・・・?

2人の影が あっという間に夜の闇に融け込んでいて
しっかり繋いだお互いの手だけが 頼れる道標
はぐれないように 迷わないように ぎゅっと握りしめたら
そっと握り返してきた蘭が ちょっとわかったかも と微笑む
見透かされたようなタイミングに ドキリとしながら言葉を待てば
イチゴが好きな理由なんだけどね と切り出されて
ホッとしたような残念なような 複雑な気持ちになりかけたとき
あのね と続いた言葉には ただ降参するしかなかった
「2人を繋いでくれた 大事な切欠だから」
今夜のデザートは 買ってきたばかりのイチゴ
ロンドン橋に思いを馳せて 昔話に浸るのもたまにはいい
話の隙間に 口に放り込んだイチゴは
いつもよりとんでもなく甘く そしてちょっと酸っぱく
頭の芯からとろけてしまいそうに美味しかった


― END ―


先日のSPARK8で配布したペーパーより再録です。
「イチゴ」と言えば、ロンドンでのエピソードに繋がるキーアイテム。
単語としての音(響き?)もビジュアルもカワイイなぁ、と。
新しいものを用意できなくてアレなんですが、ちょっとでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

2013/Nov./01

Back to Tea Party → 

[Back to Page Top]

Copyright© Karin * since 2003/July/07 --- All Rights Reserved.