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The words

ある日の午後、工藤家リビング。
NY行きの飛行機で最初の事件を解決してから、新一は高校生探偵として徐々に注目を浴び始めていた。
そんな彼がソファで購入したまま溜め込んでいた小説を読みふけっていると、突如帰国してきた有希子が、いきなりこう尋ねてきた。

「ねぇ、新ちゃん。もし、明日死んじゃうとしたら、最後に何をしたい?」
「え、母さん?!何だよ、急に、、、」
「いいから、考えてみて?」

久しぶりに日本に帰って来たと思ったら、最初の一言がこれだとは。まぁ、有希子の行動に規則性やら常識やらを当てはまるほうが難しいのかもしれない。
それよりも、と突然単身帰国した理由を聞いてくる息子に、「別に優作と喧嘩をした訳ではないのよ」と慣れた手付きで紅茶の支度をしながら笑顔で答える。アールグレイの独特な香りが、いつもはガランとしたリビングルームに、やんわりと広がっていた。

***

母さんは、ときどき唐突にいろんな質問をぶつけてくる。
このときも、カップに紅茶を注ぎながら、満面の笑みを浮かべてそう聞いてきた。
オレがどう反応するのか楽しんでいるつもりらしい。こっちもそれが分っているから、いつも適当に答えてることにしている。

「あー、そうだなぁ、、、、とりあえず、じたばたしてもしょうがないから、何もしねえ。」

読んでいた推理小説から目を離さずに、それなりの言葉を返した。
オレが適当に答えるのを分っているから、いつもならそれ以上追求はしてこないのだが、このときの母さんは様子が違っていた。

「もうっ、新ちゃん、真面目に答えてよ」

わずかに語尾を強めて新一から本を奪い取ると、有希子は新一の顏を覗き込むように隣に座った。
最初は面喰らった新一も、有希子の意図を汲んできちんとソファに座り直し、改めて質問に答えた。

「、、、、、、言うべきことを言いに行く、かな」

なるべく自然に言ったつもりだったが、自分でも気付かないうちに耳が真っ赤に染まっていたらしい。目尻に笑みを溜めた有希子に肩口をつつかれて何だか居心地が悪くなってしまい、思わずそっぽを向いた。

「わかってるなら、よろしい(笑)。」

明確な言葉を口にしない息子の心中を、離れて暮らしていても有希子は的確に掴んでいた。幼い子供にするように、くしゃくしゃと新一の頭を撫でると、「実はこれ、向こうで教えてもらった心理テストなの。」と前置きして、軽くウインクして見せた。

***

死ぬ前にやっておきたいこと、、、つまりそれは、今すぐにでもやっておくべきこと。
死という究極の状況に直面して、ようやく見つけられることもあるのかもしれない。しかし、あらゆる生命には必ず終わるときが訪れる。それが50年後なのか、1時間後なのか、、、誰にもわからない。
だから、精一杯、一瞬一瞬を、自分の気持ちに正直に、そして大切に生きてほしい。

幼い頃から周囲の空気を敏感に感じ取ってしまう愛息子が、いつの日か壊れてしまうんじゃないか、、、そう危惧したのは一度や二度ではない。余り多くを語らないその心の奥に流れる感情が、いつか溢れ出してしまうのではないか、と。
でも、そんな心配は無用に終わったようで。ちゃんと神様は、見ていてくれたのだ。だって、とってもキュートな守護天使を新一のもとに遣わせてくれたのだから。

***

有希子は珍しく真摯な面持ちをして、新一を自分のほうに振り向かせた。それに気付き、目線を合わす新一。

「ね、新ちゃん。私は嬉しいのよ、新ちゃんが探偵として活躍し始めたこと。それが、あなたの夢だったから。でもね、覚えていてほしいことがひとつだけあるの。」

新一は、ただ黙って聞いている。日が随分と傾き、辺りはうっすらと暗くなり始めていた。

「口に出してしまった言葉は取り消せないけど、出されなかった言葉は、永遠に闇の中から抜け出せないんだから。自分の気持ち、ちゃんと言わなきゃダメよ?」

フッ、と笑った笑顔に優作の面影を感じて、有希子は一瞬ドキッとさせられた。いつの間にか忍び込んで来た夕陽に上手く表情を隠せたかしら、と思いながらも、息子の成長ぶりにまた一層嬉しくなった。

他人から見れば、まだ高校生の息子を置いて世界中を転々としている両親のことを、無責任だと言う人もいるだろう。お互い好き勝手にしているけれど、だけどそれはお互いを信頼しているからできることだ。他人がどう思おうと構わない。自分の我侭でひとり日本に残っているのに、何も言わず、自由にさせてくれる。今日の突然の帰国だって、本当の理由はわかっている。
だから、今言える、精一杯の気持ちで新一は答えた。

「・・・だめだよ、まだ。」
「どうして?きっと待ってるわよ、あの子。」
「こんな中途半端なままじゃ、言えない。」

ほらね。そう来ると思った。
真面目すぎるのよ、この子は。ま、それが良いところでもあるけれど。

「そう、わかった。でも、忘れないでよ。新ちゃんのこと救ってくれるの、あの子の他にはいないんだから、ね?」
「んなこと言われなくたって、わかってるよっ。」

今度は新一が有希子の肩を突いて、「すっかり冷めちまったから、淹れ直して来てやるよ」とティーセットとともにキッチンへ向かった。湯気が出そうな勢いで照れているのが、背中からも見て取れる。
数年後に我が身に起こるであろう未来の予定をひとつ胸にしまいこむと、こういうところはまだまだ子供ね〜、と微笑ましく見守る有希子であった。


− End −


ちゃんと、親子の会話になってるかな?どうでしょうか。
有希子さんも天然キャラのようだけど、でもただのボケではなく、とってもsmartなボケですよね。
でもさ、あんな素敵な人が母親だったら、ぜぇったいにマザコンになるな、私なら(笑)。

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