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「あ、あれ服部くんと和葉ちゃんじゃない?」 1学期の期末試験も無事に終わり、新一&蘭、平次&和葉の4人は久しぶりに顔を合わせることになっていた。 終業式前の試験休みを利用して、2泊3日の旅行計画を立てていたのだ。目的地は、とある静かな海辺にある工藤家の別荘。 ことの始まりは、1本の電話からだった。 *** 『はい、毛利です。』 『あ、蘭ちゃん?和葉やけど、、、今電話してても大丈夫?』 『うん、大丈夫。試験も今日で終わったし。和葉ちゃんは?』 『あたしも、、、って言いたいところやけど、うちら明日までやねん。それが終わったら元気200倍やねんけど。』 『じゃあ、あまり長電話しないように気を付けなきゃね。』 『電話かけてるのあたしのほうやから、それは気にせんといて。それより相談があってな、』 『どうしたの?服部くんと何かあった?』 まだ続こうとする和葉の言葉を遮り、受話器からもしっかり伝わるくらい心配そうな声で蘭が問いかける。 『あ、ちゃうちゃう。今年は高校最後の夏休みやし、もし良かったら4人で一緒にどっか行けへんかなぁと思って。工藤くんや平次と違ってあたしは普通の受験生やから流石に8月は難しいと思うけど、試験休み中やったら空いてるかなぁって。』 『それ、いいかもvvv じゃあ、もし都合が合うんだったら、明後日から2泊3日でどこかに行こうって言ってるんだけど、和葉ちゃん達もどう?』 『泊まりで?ええの?だって工藤くんと二人っきりで行くんやろ?うちらが行ったら邪魔になるんとちゃう?』 二人っきり、のところをわざわざ協調して言う和葉に対してほんのり頬を染めた蘭は「電話で良かったv」と思いつつ、声だけはどうにか平静を装って話を続けた。 『そんなことないよ。みんなで行ったほうが楽しいって。それに和葉ちゃんとはゆっくり話もしたいし。』 『ほんま?それやったらええんやけど、、、。』 『それより服部くんは大丈夫なの?』 『首に縄付けてでも連れて行くから、心配せんでええよ。何やったらバイクでぶっ飛ばしてもらうし。それに“工藤くんからのお誘い”って言うたら、絶対断らへんて(笑)』 『ん、わかった。じゃあ、細かいことはあとでメールするね。』 『ありがとう。じゃ、工藤くんにもよろしく』 *** というわけで平次と和葉には時間と場所だけ連絡して現地集合にしたのだが、迷うことなく到着できたようだ。先に着いていた新一が門扉まで出迎えに来た。 「久しぶり、和葉ちゃん。蘭がお茶の用意して待ってるから、先入ってていいよ。荷物はオレ達で運ぶから。な、服部?」 平次の目には明らかな営業用スマイルを振りまいて和葉に挨拶すると、新一はバツが悪そうな目でちらっと平次を見て同意を求めた。その視線はきっちり無視して、平次も和葉に向かって話し掛ける。 「そうやな、ずっとバイク乗りっぱなしやったから、和葉疲れてるやろ?折角やし、そうさせてもらったらええやん。」 「有難う、工藤くん。でも、平次のほうが運転してたんやし、疲れてるんとちゃう?」 「全然。ほら、あの姉ちゃん待ってるで?」 平次の視線を追うと、リビングの窓からこちらに向かって手を振る蘭の姿があった。 「わかった。じゃあ、遠慮なくおじゃましまーす。、、、あ、そうだ。しばらく蘭ちゃん借りるね、工藤くん。」 「なっ、、、」 振り向きざまにそう言い残すと、新一に反撃する隙を与える前に和葉は玄関ホールに消えていった。残った二人はバイクを車庫に移動してから荷物を各自の部屋に運び入れると、離れにある物置きに向かう。この間、ほんの一瞬だけ平次は考え込むそぶりを見せたのだが、背を向けていた新一は気付いていなかった。 *** リビングでは女の子同士のささやかなお茶会が開かれていた。 海に面した大きな窓は開け放たれ、浜風が心地よく流れ込んで快適な室温を保っている。二人はそのすぐ脇に置かれた小さな丸いテーブルに向かい合わせに座わっている。室内は落ち着いた色合いでまとめられていて、持ち主のセンスの良さを物語っていた。 「蘭ちゃんとこのお父さん、ようこの旅行許してくれたなあ。なんかうるさそうやけど。」 「新一と二人だけだと流石にうるさいかもしれないけど、和葉ちゃん達も一緒だからね。和葉ちゃんのとこはどう?お父さん、すごい子煩悩だって聞いたよ、服部くんから。」 「ああ、うちは大丈夫。平次と一緒やったら、たいていのことはOKしてくれるんやから。まったく、どっちを信じてるんやろ、うちのおとんは。」 「そっか。それにしても、ほんとにバイクで来たんだね、ビックリしちゃったよ。遠かったでしょ?」 「あたしは後ろに乗ってきただけやから、全然平気。一応電車も考えたんやけど、乗り継ぎとかいろいろ考えてたらめんどくさくなってな、結局バイクのほうが早いやん、ってことになってん。」 「そのほうが服部くんと二人っきりでいられるし?」 お返し、とばかりに今度は蘭が“二人っきり”を協調した。 「もうっ、蘭ちゃん!!」 真っ赤になって抗議する和葉に、蘭はあらかじめ作っておいたデザートとアイスティを差し出しながら、くすくすと笑ってみせた。大きめのワイングラスに、軽くくずしたフローズンオレンジゼリー、ミントの葉、スライスしたフルーツが数種類、バランス良く盛られている。 促されるままゼリーをひとさじ口に運ぶと、見た目の美しさと味のバランスが見事に調和された、その冷たくて滑らかな舌触りに、和葉は熱をもったままだった頬をようやく落ち着かせることが出来た。 「もしかしてこれ、蘭ちゃんの手作り?」 「うん。わたし達少し早めに着いちゃったから、これくらいなら二人の到着までに出来るかなぁ、と思って。ここ、キッチンも本格的にいろいろ揃ってるから。」 「すっごーい!めっちゃ美味しいで、これ。ほんま、蘭ちゃんって料理上手やなぁ。工藤くんは幸せ者やね。」 「そう思ってくれてるのかな、新一。」 「何言うてんの?ラブラブ光線出しまくってるやん、工藤くん。あたし、うらやましいなぁっていつも思ってるんやで?」 そう言って、和葉は蘭と交わした電話での会話を思い出した。少し背筋を正してアイスティをひと口含むと、どことなく元気のない蘭の目をじいっと見ながら更に続けた。 「あたしで良かったら何でも言うてや?遠慮せんでも、あたしも相談したいことあったら言うし、な?」 和葉らしい気の使い方が嬉しくて、蘭は少し目が熱くなった。 「有難う、和葉ちゃん。今日来てくれて、ほんとに良かった。」 アイスティに浮かべたレモンのスライスをストローでクルクルと回しつつ、蘭はポツリポツリと話し始めた。 新一は相変わらず事件だ何だと忙しく飛び回っており、しばらくまともに会話もしていない状態が続いていた。しかも、そのうちの数回は何か特別な用事で外出しているらしい。 新一となかなか連絡がつかないと言って、目暮警部や佐藤刑事が蘭に電話をしてきたことがあったからだ。そうかと思うと、いきなり旅行の話を持ち出してきたり。 結局、真相を直接確かめることも出来ないまま、今日の旅行を迎えてしまったのだった。 それでも、久しぶりにゆっくり二人で話せるチャンスと思って楽しみにしていたのに、新一は別荘に着くなり「ちょっと管理人に挨拶してくる」とかなんとか言って、和葉達が来る前に1人で勝手に外出してしまうし、、、。(おかげでデザートを作る時間は出来たけど) 静かに話を聞いていた和葉が、ここで口を開いた。 「で、蘭ちゃんはどう思ってんの、そんな工藤くんのあやしい様子に対して。」 「なんかね、わたしに隠し事をしているみたい、なの。」 「それで、蘭ちゃんはどうしたい?手が足りへんかったら、いつでも貸すで?」 「でも、やっぱり自分で解決しなきゃね。話を聞いてもらえただけで随分スッキリしたし、今夜、新一に聞いてみようと思うの。」 「そっか。それやったら、今晩上手いこと二人っきりにさせたるから、まかしといて!」 「あはははは。ありがと、和葉ちゃんvvv」 二人は目を合わせて笑った。それに合わせてアイスティの氷が揺れ、カラカラと心地よい音を立てた。 *** 一方、こちら炎天下の砂浜の二人———。 海を目の前にした絶好のロケーションにあるこの別荘地には、それぞれ戸別にプライベートビーチが確保されている。今夜は満月。天気予報もバッチリ確認済みだ。 夏・海・砂浜と言えばやはりBBQ。ここは男の腕の見せ所である。まずは必要な道具を運び込み、二人はテキパキとセッティングを進めた。 まだ高い日差しを遮るために、最初に別荘のテラスから運んできたビーチパラソルを立てることにした。砂浜に穴を掘りながら、探偵達の密談はひっそりと開かれた。 「地図見たとき、不便そうなところやったからバイクあったほうがええかな、と思って来たんやけど。下手に電車乗り継いで来るよりてっとり早かったし。でも、まさかおまえが車を用意してるとはな。」 「そりゃ、悪かったな。ホントにバイクで二人乗りして来るとは思ってなかったんだよ。大阪から何キロあんだ?かなり時間かかったんじゃねーのか?」 「しゃーないやん。オレ、まだ車の免許持ってないんやから。ま、高校生の癖にあんないかつい車乗り回してる奴には、そんなこと言われたないけどな。」 「悪かったな、いかつい車で。親父の車の中では、アレでも一番ましだったんだよ。」 かなりムッとして、言い返す。 「でも、なんでわかった?オレが免許とってること。」 「さっき車庫にバイク停めたとき、ピカピカに磨かれた車が停めてあったからな。それに、しばらく使ってない別荘の敷地内にあんな新しいタイヤの跡があるわけないし。他の人が来た形跡がない、とすれば、あれはおまえが事前に車を動かした証拠やろ?」 「・・・これだから、おまえが来るの、嫌だったんだよ。」 5月生まれの新一は、誕生日を迎えた途端、忙しい毎日をどうにかやりくりして教習所に通い、蘭には内緒で車の免許を取得していた。 アメリカでは16歳の夏にはすでに免許をとっておいたから、運転事体は問題なくできるのだが、日本では教習所に通い、定められた教習を受けなければならない。そこまで無理して免許をとったのは、すべてこの日のため。 旅行の話を持ち出したのはその直前だが、実は受験勉強が本格化する前のこの時期を狙って『初ドライブを蘭と二人で計画』をひっそり立ち上げていたのだった。 「どうせこの日のために取った免許なんやろ?そやけど、いくら初ドライブ&初旅行を邪魔されて腹立てとるからって、もうちょっとましな顏しときや?またいらん心配するで、あの姉ちゃんが。」 不覚にも言い淀んでしまった新一に、目だけ笑いながら平次が「そんなもん、バレバレやで?」と付け加えた。お互いに自分自身のことには疎いくせに、相手の思うところが手に取るようにわかってしまう。どうせばれてしまうのだから、下手に隠したりはしないようにしている。 「ま、それだけじゃねーけど。、、、なんて言うか、何かあいつ最近元気ないような気がしてよ。最近忙しすぎてまともに会う時間も取れなかったし、そのうちテスト期間になっちまうし、でな。」 「それで、この旅行で埋め合わせしよう、ちゅうわけやな?」 「・・・おめぇ、そこまでズバッと言うなよ。」 再度、西の名探偵にもっともなことを言われてしまい、平次がこれ以上余計なことを言い出さないうちに、新一は現状を楽しむほうを優先させることにした。 「とりあえず、さっさと準備終わらせようぜ。これ以上日焼けして、おめーの前後の区別がつかなくなる前にな。」 「そやな、、、って、ドサクサに紛れて、何ぬかしとんねん、おまえは。」 あまりにも鋭い平次のツッコミに対し、嫌みの一つも投げ付けておきたかった、新一であった。 *** 再び、リビング。すっかり世間話に花を咲かせていた和葉が、ふと思い付いたように尋ねた。 「ところで、蘭ちゃん。あたしら手伝わへんでええの?」 窓から数メートル先の砂浜では、新一と平次が着々とBBQの用意をしているのが見える。元々色黒の平次はともかく、新一は少し腕と顔が赤くなっているように見える。 「んー、新一からは手出しするなっていわれてるんだけど。炎天下の中で可哀想だし、差し入れしに行こうか。」 しっかり日焼け対策をしてから、冷やした濡れタオル、さっき二人で食べたゼリーと、今度は彼らの好みに合わせてアイスコーヒーを持って、蘭と和葉は砂浜に降りていった。 「差し入れに来たよー。どう、準備、進んでる?」 驚かせないように少し離れたところから蘭が声をかけると、それに気付いた新一が駆け寄りながら答えた。 「お、サンキュ。こっちはもうほとんど終わり。」 サッと鮮やかな手付きで蘭が手にしていた荷物を持ってやる。新一のそのスマートな身のこなしに目をやると、和葉は「こういうことをほとんど無意識のうちにできるくせに、何をいらん心配させてるんや、工藤くんは」と心の中で突っ込まずにはいられなかった。 ふと視線を感じると、まだしゃがんだままで最後の作業をしていた平次が和葉のほうを見上げていた。ハッとして平次の傍に行くと、慌てて手にしていた冷タオルを手渡す。 「お、お疲れさん。」 「おわっ、冷たっ。あー、これで生き返ったわ。いくら暑さに強いオレでもちょいキツかったんやから、工藤はもっときつかったんとちゃうか?」 剣道部に所属する平次は、真夏の暑い最中にも防具を付け、これまた蒸し暑い剣道場で稽古をするので、もともと暑さには強い。新一もサッカー部のエースとして活躍していたので多少の暑さには耐えられるが、平次のそれには劣っている。何と言っても、東京と大阪では、その土地に含まれる湿気が全然違うのだから。 「アイスコーヒーも持って来てん。蘭ちゃんお手製のデザート付きやで。」 「で、和葉は何をしたんや?」 「あたしは、、、美味しくいただいてました、、、。」 「ちょっとは見習えよ、あの姉ちゃんを。」 「もう、うるさいなぁ、平次は。それくらい、あたしが一番ようわかってるわっ。」 いつものように、にぎやかに言い合いながら二人でパラソルの下のテーブルまで戻って来ると、そのテーブルセッティングに唖然とした和葉が、声を張り上げた。 「工藤くん、ちょっと何これ?これがBBQなん?」 和葉が驚くのも無理はない。BBQとは名ばかりで、そこはまるで高級レストランのテーブルかと見間違えるように飾られている。 テーブルには、風で飛ばないように四隅に重りを付けた白いクロスがかけられ、鳥の形に折り込まれたナプキン、曇りのないワイングラス(きっと水でも飲むのだろう)、シルバー類、それにメインディッシュ用の飾り皿まで置いてある。さっきまで平次が組み立てていたコンロだって、そう言えば普通ではあり得ないような代物だ。その横には何故か鍋一式も設置されていたし。 いったい、誰がこれをBBQと呼ぶだろうか? 「別に、毎度こういうわけじゃないよ。今回はちょっと凝ってみたけど。」 「あ、そう。」 なんだか急に脱力してしまった和葉とは対照的に、蘭はいつもどおりの様子でお茶の用意を整えていた。バスケットから取り出したゼリーを新一と平次に渡しながら、聞いてみた。 「服部くんは、こういうの食べたりするの?」 「甘いもんもけっこう食べるで。でも、こりゃ見事やな。すごいうまそうやん。」 「良かった。あまり甘くしてないから、多分大丈夫だと思うんだけど。」 「蘭ちゃんはもっと堂々と主張したほうがええよ。そこらのお店の人も逃げ出すくらい美味しかったんやし。工藤くんも、そう思うやろ?な?」 一足先に、すでに半分近くデザートを口に運んでいた新一は、いきなり名指しされて、最初は「へ?」と間抜けな返事をしたが、「うん、すっげー美味いよ、これ。」とさらりと付け加えた。 その表情があまりにも優しすぎて、蘭は平次と和葉がいるのを一瞬忘れるくらい、ぽーっと新一に見とれてしまった。そこをすかさず和葉が突っ込む。 「らーんちゃん、やっぱりあたしら、お邪魔やったんとちゃう?」 「かっ、和葉ちゃん!!!」 「さっきの仕返しやっ。」 そう言い切らないうちに波打ち際に向かって逃げ出す和葉を、もうっ、と赤い顔で蘭が追いかけた。 そのうち、膝下まで海に入って水の掛け合いまでやり始める。 取り残された探偵達はパラソルの陰でアイスコーヒーをすすりながら、楽しそうにはしゃぐ二人を眩しそうに見つめていた。 「案外、早く解決するかもしれへんな。」 「何がだよ?」 「ま、オレにまかせときや。今夜、ばっちり二人っきりにさせたるから。」 「服部くん、君も素直じゃないねぇ。はっきり言えばいいだろ?『オレが和葉ちゃんと二人っきりになりたいんだ』ってな。」 「なんやと?」 ごく低温の冷気を込めて新一が放った言葉に、平次が半目で言い返す。 気まずい雰囲気の流れる中、さっきまで騒いでいた蘭と和葉がパラソルまで戻ってきた。 「ねぇ、ずいぶん陽も傾いてきたし、ちょっと早いけど、そろそろBBQ始めない?」 夏の太陽はまだ少し威力を発揮しているが、時計の針はいつの間にか午後6時に近付いている。一応ランタンも用意してあるので暗くなっても大丈夫だが、明るいうちに始めたほうが楽なのは確かだ。 「そうだな、そうしようか。じゃあ、冷蔵庫から食料持って来るよ。」 「じゃ、わたしも手伝うね。」 「そんじゃ、オレらはこっちで火、起こしとくから。」 「頼むな。すぐ戻るから。」 「別にゆっくりしててもええで?」 キッ、と新一がひと睨みすると、平次がわざとらしく肩を竦めてから「さあて、着火材はどこやったかなぁ?はよ、火付けな間に合えへんようになるで?」と更にわざとらしく言ってのけると、的確にその意味を察知した新一は「うるせえっ」と心の中で怒鳴り散らしていた。 これ以上平次に引っ掻き回される前に今はこの場を離れるのが一番の安全策だと思い、蘭の手を取って一直線に別荘に向かった。 「なんや平次、ちゃんとここに置いてあるやんか。」 平次の言葉を真に受けて律儀に着火材を探していた和葉が、テーブルの上の箱を指差して言った。 「平次、あんたこんなんでよう“探偵”なんて言えるなぁ。恥ずかしいわ、ほんま。」 あきれた和葉が箱を手渡そうとすると、平次はすでにもう一つの着火材を使って木炭に火を引火させているところだった。その瞳は、決して炎の影響だけではない輝きを放っている。こういうときの平次は、何か考えがあるに違いない。迷わず、そのわけを聞いてみた。 「何企んでるの、平次?」 「なんや、やっぱりバレてしもた?」 悪戯っ子のように微笑んで、平次が今夜の計画を打ち明けた。 「名付けて『ラブラブ大作戦パート2』や。 今回はあいつらの旅行に邪魔してもたみたいやからな、オレらで精一杯盛り上げたらんと。」 「平次、センスないで、その名前。それになんやの“パート2”って?パート1はどないしたん?」 「余計なことは気にせんでええ。それより、協力するんか、せーへんのか、どっちや?」 「ま、ようわからんけど、ええよ。実はあたしもそう考えててな、さっき蘭ちゃんと二人でお茶してたとき『二人きりにさせたるから』って約束してん。」 「よっしゃ、ほんなら作戦決行!失敗すんなよ?」 「あんたこそ、いらんこと言いなや?」 大阪コンビの密約がまとまったところで、そうとは知らない新一と蘭が別荘から戻ってきた。 コンロの火もちょうど良い加減になっている。 こうして、BBQパーティが始まった。 |
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