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Happy Accident

〜 幸運な偶然 〜

「悩みなんてないんだろうな、工藤には。」


そう、良く言われる。実際、そんなふうに振る舞ってきたし。
自分でもそう思ってた。

確かに、端から見れば、そうなんだろうな。
両親は揃って有名人、古いが豪奢と言える家に住み、金に不自由はない。
最初から刻み込まれていたかのように、勉強などしなくても知識は苦もなく身に付き、
授業を受けていなくても、試験はほぼ満点で。
容姿は、、、自分で言うのもなんだが、どちらかと言えば悪いほうの部類には入らないだろう。

他の奴から見れば、そりゃ、おもしろくねぇよな。
まぁ、それを直接ぶつけてくる族は、まだ質がいい。
理詰めで、或いは別の方法で、そっくりそのままお返しできる。
案外そのあとには、仲良くなったりすることもあるものだ。

じゃ、圧倒的多数派の、他の場合はどうするか。

冷たい視線、嫉妬、非難、中傷の数々。
でなければご機嫌取りの、まるで印鑑のようにお揃いの嘘くさい仮面が並ぶ。
言いたい奴には、勝手にさせればいい。付きまとう奴は無視すればいい。
別に、どうってことはない。
そんなレベルの低い賊共に付き合ってやるほど、オレは暇じゃないし。

ただ、かけ違えたボタンをそのままにしているような稀妙な違和感が、
自分の内側に、指2本分くらいの力加減で、いつもぶら下がっている感覚を
覚えるようになった。

日を追うごとに大きくなってくる、分類不可能なこの気持ち。
一体、なんなんだ、これは。





今思えば、可笑しくて仕方ないことなのだが。
あの頃は自分でもわけがわからなくて、その指を無理矢理引き剥がそうとしてたな。
何度やっても上手くいかないからって、ますます焦るばっかりで。

それまでのオレは何でも卒なくやって来れたし、ある程度の自信も自負もあった。
出来ないことなんてない、と思っていたのは、所詮思い上がっていただけなのかもしれない。


こんな気持ちにさせられたのは、そう、あいつが現れてからだ。


初対面のときの、あの日を一生忘れることはないだろう。
まっすぐに長く伸ばされた黒髪、何処までも見透かされそうに澄んだ、大きな瞳。
両親同士は旧知の仲だったらしいが、ずっと外国育ちだったオレが知るわけもなく。
彼女は、その一人娘だと言う。

自分の親以外は、敵かそれ以下の人間しか見たことのなかったオレにとって、
それはまさに、未知との遭遇。

初めて出会った、何もない人。

いや、何もない、のではなく、オレを「何もない」状態にしてしまう人。
大好きなホームズも父さんの書斎にある古書の匂いも、全部吹き飛んで、
顔を合わせた瞬間、頭の中が真っ白になった。
こんなことは、今まで一度もなかった。
すべてがオレの手の中にあったはずなのに。


思えばこの日、小さな種をひと粒蒔いてしまっていたんだ。
心の奥底の、一番柔らかいところに。




今なら、わかる。
それが一体、何だったのか。
むず痒いようで、居心地が良いような、不思議と暖かい感覚。





あいつのことを、泣かせたくないと思う。
できるだけ笑っていてほしい、と思う。
できるだけ、、、そばにいたい、と思う。

それをオレの役目にしてもらえる日が、来るかどうかはわからないけれど。


今もあいかわらず、嫌な奴はしょっちゅう寄ってくるし、
事件を解決したときの、どうしようもない高揚感と喪失感はついて回る。


だけど、そんなことはもうどうでもよくなっていて。
何があったって、切り抜けていける自信だけは、ついた。




そう、あいつがいる限り、オレはどんなことにも平気な顔で笑っていられるんだ。


— END —


いやぁ、新一ってなんか敵多そうじゃないですか?
っていうか、小さい頃って、自ら壁を作ってしまって、あまり友達とか
いなさそうなイメージがあります。
そんな壁をバーーンって壊してくれるのが、蘭ちゃんなのだと、私は思うのです。

それにしても、冒頭の新一。ちょっと、高飛車すぎました?
でも、偉そうなくせに照れ屋さんな彼が好きなんだもの。あはは。
ま、私の中では、どのカップルも異様なほどに恥ずかしがりになっちゃうので、
きっと老若男女にも安全な作りになっているはず。なんてね。

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