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From your lips



〜 ときに厳しく、ときに静かに 〜






「形はどうあれ、嘘は嘘だもんな。ゴメン」

この言葉から始まった、新一の告白。
驚いたこともなくはないけれど、静かに全ての言葉を受け入れることが出来た。


ずっとずっと、そばにいてくれたこと、すごく嬉しかった。
精一杯広げられた小さな掌から、いつも勇気をもらっていたわ。
でも、100%手放しで喜べないわたしがいるのも、事実。

さぁ、今度はわたしが告白する番。洗いざらい、ぶちまけてみようかな。

一通り語り終わった新一の目の前に立ちふさがり、じりじりとその距離を詰める。
以前よりも少し位置が高くなった、青みがかった瞳に
思い切ってぶつかってみよう。



たとえば。

携帯番号をわたしに教えるずっと前に、服部君には教えてたこととか。
一緒に露天風呂に入っちゃったこととか、一緒のベッドで眠っちゃったこととか。
小学1年生として、わたしのひざの上にちゃっかり座っていたこととか。

全部なかったことにしてもいいわ。
だから。

不安になると、つい、ぎゅーって抱きしめちゃってたこととか。
いっぱい弱音を吐いちゃったこととか、何度も涙を見せたこととか。
・・・新一の言葉を否定してしまったこととか。

ずっとずっと寂しくて、辛かったんだもん。
だから。
こっちも全部なかったことにしてくれる?


ゴメン、調子いいこと言ってるよね。わかってるんだ。

本当は新一のほうが、何倍も、何十倍も辛かったんだってこと。
新一は「そんなことない、悪いのはオレだ」って言うけれど。
違うよ。
新一は悪くない。

新一の秘密を共有していた、新一のご両親も
博士も、服部君も、哀ちゃんも
誰も悪くないの。


本当は誰だって、つかなくていい嘘なんか、つきたくはない。
自分にも相手にも、いつだって正直でありたい。
だけど。
そんなシンプルに生きていけるほど、世の中も人生も甘くはないから。

悲しくて苦しくて、どうしようもなかっただけ。
大切な人を、守りたかっただけ。
・・・だから、誰も悪くないの。



とても大切な人を、ずっと大切にしていきたいと思うから
ときには、精一杯の強がりの姿勢で、本心と違うことを口にすることだってある。

たとえそれが、思いやりというフィルターを通した、偽りであったとしても。
嘘だとか誤魔化しだとか、裏切りだとか、
卑しい気持ちから生まれる行いと、同列に置かれることがあるのかもしれない。
その結果、大切な人を傷つけてしまうことだって、きっとある。

以前のわたしだったら、多分、理解出来ないことだったと思うの。
でも今はね、ほんの少しだけど分かるんだ、その気持ち。

子供じみた天の邪鬼さではなくて
本当のことを、本当の気持ちを、伝えたくても言うことが出来ない
そんな切なさがあるってこと。


ひとつ言葉を選ぶたび、真新しく付いた傷に心がキリキリと悲鳴を上げる。
こうやってまた、心の奥底に潜む闇が、ほんの少し深くなって
その闇を誰にも見破られないよう、また新しい言葉を探す。


でもね、わたしは我が侭だから
そんな闇の中でさえも、覗いてみたいと思うのよ。
新一の中の闇を、手探りしてでもいいから。



小学生のとき、宿泊行事の夜に開かれた、肝試し大会。
森の奥にある神社で名前を書いて戻ってくるという、極めて単純なルール。
それでもわたしは、暗闇が怖くてたまらなくて
ぎゅっと目を瞑ったまま、必死に新一の手を握りしめていたわ。

だけど、今度は自分自身の力で、ちゃんと前を向いて歩いて行くから。
格好良い新一のことも、そうでない新一のことも、
ありのままの新一の気持ちを、全て受け止めてみせるから。


一番奥底まで辿り着くことができたら、そのときは大きくサインしてくるね。
極太のマジックで、堂々と。

どんなときでも、どんなことがあっても、
新一のことが大好きです、って。

絶対に消せない、油性のマジックを選んで、ね。


― END ―


新年早々、なんですか、これは。うーん、我ながら良くわかりませんが。
何も考えずにつらつらと書いてみたら、いつの間にやらこうなってました。
詩のような、お話のような、呟きのような。(最後にちょこっと体裁は整えたけど)
いやはや、白黒ハッキリ付けるっていうのは、なかなかに難しいもので。
グレーゾーンの存在も、ときには必要なのかもしれないよね。


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