Silent eve    maaさま



 今日だけは、そばにいてほしかったのに。
 
 幸福そうな恋人達が行き交う街に、一人たたずむ少女の影。
 
 時計台の前には、待ち合わせの女の子達が何人もいたはずなのに。
 
 気づいてみれば、その誰しもが自分だけのサンタクロースに連れられて、
 
 明るい街灯の向こうへと消えていってしまった。
 
 そして、残された少女が一人。
 
 今日だけは、一緒にいたかったのに。
 
 真っ白な粉雪がちらりと舞い降りて、少女は頭上を振り仰ぐ。
 
 逢いたいと、メールを送った。
 
 ここで、いつまでも待っているから、と。
 
 返事はいつものように、ごめん、と一言。
 
 それでも少女は、待っていた。
 
 この聖なる夜に、どうしても逢いたくて。
 
 もう、少女のほかには誰もいなくなってしまったその場所で、それでも彼女は待っていた。
 
 今日だけは。
 
 お願い、今日だけは。
 
「・・・蘭姉ちゃん」
 
 ためらいがちにかけられた声。
 
 いつのまにかそばに立っていた、小さな男の子。
 
「・・・もう、帰ろう。風邪引いちゃうよ?」
 
「もう少し・・・待ってる」
 
 消え入りそうな少女の答えに、男の子の顔が苦しそうに歪む。
 
 泣きそうな少女の顔と、苦しげな男の子の顔。
 
 粉雪が、二人に降り注ぐ。
 
 静かなイヴの夜。
 
 
 
※※
 
 
 
 ああ、そうか。
 
 あのとき、あなたも苦しかったんだね。
 
 来ないあなたをいつまでも待っているわたしを見て、あんなに苦しそうにしていた。
 
 やっとわかった。
 
 わたしより、あなたの方が苦しんでいた。
 
 だってわたしは、あなたが苦しんでいることを知らなかった。
 
 あなたは、わたしが泣いているのを知っていた。
 
 ごめんね。
 
 知らずに、あなたを苦しめていた。
 
 だから、今日は。
 
 去年と同じ場所で待つ少女のもとに、駆けて来る人影。
 
 去年はけっして現れてくれなかった、大切な人。
 
 ・・・本当は、そばにいてくれたのに。
 
 それに気づかず泣いていた、去年のわたし。
 
 だから、今年は。
 
 とっておきの笑顔で、あなたを迎えよう。
 
 粉雪の下で。
 
「・・・メリークリスマス」
 
 
 
〜Fin〜


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