宴のあとで maaさま
博士の家で行われたクリスマスパーティ。
コナンは元太、光彦、歩美らとともに、それに参加していた。
夜にはそれぞれが、それぞれの家族とともにクリスマスを祝うことになっているので、時間はまだ明るい2時から5時まで。
子供たちの大好きなケーキとお菓子、ジュースやココアが準備されている。
サンタクロースの格好に扮した阿笠博士が、準備したプレゼントを配りながらお出迎え。
それにはしゃぐ子供たち。
「・・・博士のサンタさん、ほんとうのサンタさんみたいー!」
歩美が無邪気に喜んでいる。
・・・本当のサンタさんなんて、見たことあるのか?・・・とは、コナンの心の突っ込み。いや、子供の夢を壊してはいけない。
「歩美、今年はサンタさんに、くまさんのおっきいぬいぐるみが欲しいってお願いしたんだよ!」
「ボクは、欲しかったゲームソフトです!」
「オレ、うな重!」
「・・・元太君は、いつでもそれですよね・・・」
「何だよ、わりーかよ!」
「でも元太君、サンタさんの袋にうな重入れたら、他のプレゼントまでぐちゃぐちゃになっちゃうよ?」
「そうですよ!それにサンタクロースは遠い北欧からそりに乗ってやってくるんです。うな重なんて元太君のうちにつく前に、冷めてしまいますよ!」
・・・そんな問題か?
いやいや、やはり、子供の夢を壊してはいけない。
「コナン君は、何をお願いしたの?」
無邪気な笑顔で尋ねられ、コナンは、はは・・・と乾いた笑いを漏らした。
「・・・別に欲しいものなんて、ねーからよ」
おめー、夢がねーなー、と元太が言う。
・・・欲しいものが、ないわけじゃない。
それどころか、数え切れないくらい。
例えば、黒の組織に関する情報だとか、APTX4869の解毒剤だとか、・・・元の、身体、だとか。
だけど、欲しいものは人に頼んで与えられるものではない。
自分の手で、見つけ出さなければならないものばかり。
ふと見ると、哀が少し離れたところから、はしゃぐ子供たちに穏やかな視線を送っていた。
「・・・オメーも子供の頃は、サンタクロースを信じてたのか?」
小声でからかうように言うと、哀はすっと目を細め、ふふん、と鼻をならした。
「そんな風に見える?」
「・・・見えねー」
「残念でした。信じてたわよ。・・・組織の命令で渡米する前まではね」
「へー・・・」
「そういうあなたはどうなのよ、探偵さん?子供の頃から真実だけを追い求めていたあなたのことだもの、そんな夢物語ははじめっから信じてなんかいなかったのかしら?」
「・・・まあ、な」
哀の言葉に曖昧に頷きながら、コナンは子供の頃に想いを馳せた。
自分自身、いつまでサンタを信じていたのかなんて、まるで記憶にも残ってはいない。それくらい昔に、彼は現実を認識していた。いわく、
(空をそりで飛んでくる?物理的に不可能だって。世界中に何人子供がいると思ってんだ?一晩で全員に配るなんて、ありえねーだろ。煙突から入ってくる?だから、煙突ないって。窓も閉まってるって。・・・どう考えても、ここにプレゼント置いたのは、内部の人間だろ?)
・・・実にかわいくない子供であった。
それとは反対に、可愛げのある子供であった・・・つまり、かなり大きくなるまでサンタクロースの存在を信じていたのが、幼馴染の蘭。
(朝起きたらね、くつ下の中にプレゼントが入ってたの!サンタさんが来てくれたんだよ!うちには煙突ないから、ちゃんと来てくれるか心配してたんだけど、きっと窓から入ってきたんだね!)
そう言ってはしゃいでいた幼い頃。
オメーのうちは、窓の鍵を開けっ放しで寝てるのか?・・・と突っ込めば、
(ううん。ちゃんと閉まってたよ。サンタさんて魔法も使えるんだね!すごいよね!)
・・・なぜ、そっちに結論がいくんだ?ふつー、窓が閉まってたら内部犯の仕業だろ?いや、べつに犯罪じゃねーから、「内部犯」はおかしいかもしれないが。
が、顔を上気させて嬉しそうにはしゃいでいる蘭に、本当のことを言ってがっかりさせたくはなかったので、当時は「そりゃーよかったな」と適当に相槌をうっていたっけ・・・。
「何を考えているの?」
「・・・え?」
昔の思い出に浸りかけていたコナンは、哀の声で現実に引き戻された。
「どうせ、探偵事務所の彼女のことでしょ?」
「・・・んなんじゃねーよ」
言いながらも、図星を指されてちょっと赤くなる。
結局、どんな行事もイベント事も、蘭との思い出につながっている。
子供の頃からずっと一緒だったのだから、それが当たり前なのだけれど。
博士の家のパーティーに行く、と言ったら、夜はうちでご馳走作るんだから、ちゃんと帰っってきてね、と笑っていた。
せっかくのクリスマスなのに、父親とガキンチョのために、ご馳走作り・・・それを嫌がるようなヤツではないのはわかっているが、本心はやっぱり、「新一とロマンティックなイヴ」を過ごしたいんじゃねーのか?・・・と思うのは、自分の自惚れだろうか。
残念ながら、今年はそれを叶えてはやれないけれど。
サンタクロースがいるのなら、蘭の笑顔を運んできてくれよ。
ま、無理か。
それすらも、結局は自分で手に入れるしかないのだから・・・。
※※
自宅に戻れば、香ばしい匂いに包まれる。
蘭のお手製のご馳走が、コナンを待っていた。
「はい、コナン君、クリスマスプレゼント!」
大きな包みをにっこり笑って手渡される。
・・・ふつー、枕元に置いておくとか・・・するんじゃねーのか?
「どうせコナン君、サンタさんなんて信じてないんでしょ?」
「な、なんでそう思うの?」
「新一もねー、ちっちゃい頃から信じてなかったみたいなのよねー。わたしは結構大きくなるまで信じてたんだけどね」
そう言って、蘭は楽しそうに笑う。
「コナン君て、新一にそっくりなんだもん。きっと、そりで空を飛ぶなんて物理的に無理、とか思ってるんでしょ」
ははは・・・。その通り。
っていうか、同一人物だから当たり前だっつーの。
「新一ったらねー、せっかくわたしがサンタさんを信じてたのに、サンタクロースが存在しない理由はああでこうで・・・って、えっらそうに説明するのよ。ほんっと、夢のないヤツなんだから・・・」
えーと、オレ、そんなことしたっけ・・・?
そーいや、中学に入った頃に、蘭がまだサンタを信じてたのを知って、ついつい説明してしまったような気も・・・。っていうか、その年までサンタを信じてるって、ありえねーだろ、ふつー・・・。
夢があるとかないとかって問題じゃねーって。
「でもね、その後わたしがちょっとショックを受けて落ち込んでたら、アイツ、代わりにオレが蘭のサンタになってやるよ、って言ってたのよねー」
蘭は、ふふふ、と楽しそうに笑う。
・・・そんなこと、言ったような、気もするが・・・。
そんな昔のこと、蒸し返すなよ・・・。
コナンは顔を赤らめて、俯いてしまう。
けれど。
オメーも、同じなんだよな、とちょっと嬉しくもあったり。
すべてのイベント事が、みんなオレとの思い出につながっているんだよな?
「今年は・・・無理みたいけどね」
蘭の声に、少しだけ寂しさがにじむ。
何が無理みたいなのか、聞くまでもない。
新一が、蘭のサンタになることが・・・今年は、できそうもない、ということ。
コナンの胸に、ちくっと小さな刺がささった。
※※
深夜にそっと蘭の部屋に忍び込むと、部屋の主は規則正しい寝息を立てて眠っていた。
静かに枕元に近づき、小さな小箱をそっと置く。
その上に、カードを添えて。
新一サンタからのクリスマスプレゼントは、小さな十字架のペンダントヘッド。
明日の朝、目覚めたら蘭は何と言うだろう。
置いたのがコナンだということぐらいはわかるだろうから・・・いろいろ問い詰められるかもしれないが。
今年は、直接渡してやることができなかったけれど。
きっと来年は・・・オメーの笑顔が見られるように。
蘭の、サンタクロースになれるように。
がんばるから。
だから、待っててくれよな?
「・・・メリークリスマス」
〜Fin〜
12月中のみダウンロードフリー、ということで、クリスマス・ストーリーを2本、頂いてきました。
「これぞ、新一」な感じが良く出ていて、お見事なのです。素敵なお話、ごちそうさまでしたv
是非、Linkページからmaaさまのサイトへお運びください。かっこいい新一に出会えますよ。
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