Winter Comes Around
「あ、雪!」
「ほんとだ!」
空から舞い降りてきた、小さなプレゼントを掌に乗せる。
それは、体温ですぐに消えてしまう。
冷たいけれど、なぜか、心は温かくなる。
「あーあ、新一と見たかったのにぁ・・・」
どこ行ってんだか、といつものセリフ。
コナンは苦笑いを浮かべて、「そうだね・・・」と相槌をうつ。
心の底で、蘭に手を合わせる。
ゴメンな。
でも、そばにいるから。
冬の訪れを、こうやって一緒に、肌で感じていたいから。
東京では珍しい、ホワイト・クリスマス。
蘭が焼いたケーキに、2人でデコレーションを施す。
頬に飛んだ生クリームを蘭が指で拭った。
それだけで、コナンは真っ赤になってしまう。
なんでもない、1日。
だけど、特別な1日。
コナンの姿ではあったけれど、共に過ごすことができてよかった。
後から、新一からのフォローも入れておかないとな。
コナンは、コナンであって、新一ではない。
降り続く雪を、飽くることなく眺めている。
「そんなに嬉しいの?」
「うん! 私、雪って大好き♪」
「寒いのに・・・」
「そう? 雪って、なんだか、包み込んでくれて、守ってくれる気がするもの」
「そうかなぁ・・・」
「そうだよ!」
包み込んでくれる?
東京で、雪なんて言っても、数センチしか積もらないのに、その表現はおかしいだろ。
コナンは、不思議そうに蘭を見つめた。
その視線に気付いて、蘭が優しく笑いかける。
「何年前だったかなぁ・・・。東京で、観測史上最高の積雪を記録したのよ」
ああ、確か、まだ子供の頃(今だって子供だが)に、そんなことがあったっけ。
「その夜、新一の家に行ってたんだけどね。大雪のせいで、新一の家から出られなくなっちゃって」
「そんなに積もったの?」
「うん! そりゃもう! でね・・・」
「で?」
「・・・・・・」
蘭は、無言になって、真っ赤になってしまった。
「・・・蘭姉ちゃん?」
コナンの言葉に、ハッとする。
「あ、うん。だから、雪は、好きなの!」
なにが、どう、結論づいているのだ?
コナンは、クエスチョンマークを並べながら、蘭が淹れてくれた紅茶を飲む。
蘭が思い出していた日の事を、コナンも思い出そうとしてみる。
記録的な大雪。
それは覚えている。
その日に、蘭が、うちに来てた・・・?
あ!!
そうだ。
帰れなくなってしまった蘭と、毛布に包まって、ベランダへ続く大きな窓の前に座り込んで雪を眺めていた。
有希子が淹れてくれた、ココアのカップを小さな手で包み込み、2人で飲んだっけ。
だから、蘭のやつ・・・。
包まれているって、そのことか。
コナンは、蘭にメールを書く。
「ホワイト・クリスマスになったな。でも、あんときみたいに積もるのは、かんべんだよな」
蘭からの返事。
「でも、新一、あの時、嬉しそうに雪だるま作ってたじゃない」
コナンの返事。
「お前が作れって、うるさいからだろ!」
更に、蘭の返事。
「だって、雪が降ったって、証を残したかったんだもん」
コナンからの最後のメール。
「じゃあ、今日のクリスマスの証を残しといたから、ありがたく受け取れよ!」
電話しろよ、と突っ込まれそうな、即レスメールの応酬が終わると、蘭が階段を駆け下りる音が響いた。
その軽やかな足音を聞きながら、コナンは窓の桟に積もった雪を集めて、小さな雪だるまを作った。
降りるときと同じように、軽やかな足取りで登ってくる。
「もぉ、プレゼント置いていくんなら、顔くらい出していけばいいのにね!」
「本当だね」
小五郎の灰皿の上に、ちょこんと置いた雪だるま。
「あ、雪だるま!」
蘭が見つけて、破顔する。
「かわいいでしょ!」
「ありがとう、コナン君!」
本当に、新一もコナン君も、私の好きなものわかってくれるんだから・・・
だから、冬って好きなの。
だから、雪って好きなの。
新一が、包み込んでくれている気がするから。
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