土曜日の午後に   maaさま

「これは事件ですね」

口調は神妙だが、唸るようにそう言った少年の瞳は、好奇心と期待感とでらんらんと輝いていた。

「・・・事件だな」
「・・・事件だね」

少年の言葉を鸚鵡返しに繰り返す、もう一人の少年と、その二人の仲間である少女の瞳も、同様。
実に久しぶりの彼らへの依頼(?)は、どうやら思っていた以上の難事件であったようで、少年達の胸をかつてないほどに高鳴らせていた。

だが、しかし。
彼らの実質上のリーダーであり頭脳でもあった少年探偵が転校していってしまった現在、この難事件を自分達の力だけで解決するのは、かなり無理がある。
少年二人はそれを認めるのが少々悔しいだろうが、実際問題、事件の依頼人(?)の部屋で悩みに悩んで3時間。自分達だけではどうにも解決の糸口が掴めそうにないと悟らざるを得なくなる。

「・・・どうしましょうか」
「・・・どうしようか」
「・・・どうすんだよ」

三者三様に同じ台詞を口にしてから、彼らの視線はゆっくりと、腕組みをして部屋の戸口に寄りかかり我関せずとばかりに傍観者を決め込んでいた、もう一人の少女へと向かう。

「・・・哀ちゃんは、どうすればいいと思う・・・?」

縋るような瞳で尋ねられ、赤みがかった茶髪の少女は軽く肩をすくめて見せた。

「・・・残念ながら、わたしにもさっぱりよ」

誰かさんの事件体質が乗り移ったかのように、すぐに事件に首を突っ込みたがる、困った子供達。その保護者役兼お目付け役を「彼」から引き継いだのは確かだが、探偵団のリーダー役兼ブレーン役まで引き継いだ覚えはない。
もっとも、逆立ちしたって「彼」ほどの推理力など元々持ち合わせてはいないのだから、この子達をイレギュラーズよろしく自分の手足のように動かして、事件を解決に導く・・・などという芸当、やろうと思ったってできるわけなどないのだが。

・・・かといって、行き詰まって途方に暮れているこの子達を、このまま突き放してしまうのも気が引ける。あいかわらず縋るような視線を向けてくる三人の子供達に対し、哀は一つの提案を口にした。

「・・・どうしても行き詰まってしまったんだったら、プロに相談してみたらいいんじゃない?」
「プロ?」
「・・・だから、プロの探偵さんに」



※※



「・・・で、何でそれがオレなんだよ・・・」

自宅の玄関先で、期待に満ちた三人分の瞳プラス小学生離れした冷めた一人分の瞳に下から見上げられ、新一は思わず頭を抱えそうになった。

久しぶりに事件の依頼のない、完全休日となった土曜日の午後。
昨夜自宅に帰ってきたのが夜中の3時を回っていたので午前中いっぱいを睡眠時間に充て、さあこれから蘭と一緒に週末旅行にでも出かけようか・・・と思っていた矢先の、かつてのクラスメイトたちの訪問であった。

「・・・お願いします!新一さん!」
「頼むよ、新一兄ちゃん!」
「新一さん、お願い!」

(・・・って、言われてもなあ・・・)

アポなしでいきなり押し掛けてきた彼らの話を総合すると、こういうことらしい。

昨日の放課後、珍しく元太の下駄箱に、少年探偵団への依頼の手紙が入っていた。依頼人は隣のクラスの男の子で、依頼内容は「ずっと撮り溜めしていた仮面ヤイバーのビデオを泥棒に盗まれたから、取り戻してほしい」というもの。(・・・何なんだ、そのふざけた依頼内容は・・・とは思ったが、口に出すのは何とか思いとどまった。)

この少年・・・中村和樹君というのだが、彼の家が空き巣に入られたのは本当のことらしい。
家族が全員外出していた平日の昼間、1階リビングの窓を割って侵入した空き巣に家中ひっくり返されて、金目のものをごっそり盗まれていたという。帰宅してその惨状に慌てた和樹君の母親が警察に通報し、すぐに現場を検証。かなり慌て者の泥棒だったのか、指紋も遺留品も足跡もばっちりと残されており、2日後には無事に逮捕と相成った。・・・盗まれた物はまだ処分前で犯人が所持しており、そのほとんどは取り戻すことができた・・・という、まさに不幸中の幸いな事件であった。

ところが、である。空き巣が入った日に家からなくなっていたものの中に、前述の和樹君所持の仮面ヤイバーのビデオが含まれていたのだ。
金目のものだけ選んで盗んでいくような犯人が、何十本にも及ぶ・・・つまり、かなりかさの張る、かつ資産的価値などまるでないと思われるそんなビデオを盗むとは到底思えない、というのが警察の判断で、それを裏付けるかのように逮捕された犯人も、そんなビデオは知らないと言っているらしい。
 絶対にあの日に盗まれたのだ、と主張する和樹君に、警察も周りの大人たちも、家族が間違って捨ててしまったのではないか、とか、和樹君がどこかに仕舞ったのだがその場所を忘れてしまったのではないか、と他の可能性を指摘するのだが、絶対にそんなはずはないのだと彼は言う。
大人たちの誰もそれを信じてくれず、途方にくれた和樹君は藁にも縋る思いで少年探偵団に依頼してきた。
久しぶりの事件の依頼に色めきたった元太・光彦・歩美の三人と自称お目付け役の哀は、さっそく今日の午前中、依頼人である和樹君の自宅へ出向いたという。
そして調査を開始して3時間・・・何の手がかりも得られないままに時は過ぎ(・・・そうそう簡単に見つかるくらいなら、警察がすでに見つけているだろう・・・)、どうしていいのかわからなくなってしまった3人を哀がここまで連れてきた・・・という話なのだ。

(・・・灰原・・・オレに対する嫌がらせか?)

他の三人とは少し離れた位置に立ち、まるで他人事のように事の成り行きを見守っているかつての「同志」に、新一は恨みがましく視線を送った。・・・が、哀の方はどこ吹く風とばかり、涼しそうな顔をしている。
哀が彼らをここに連れてきたのは新一に対する嫌がらせなどではなく、単に事件に首を突っ込んだ彼らの「お守り」を新一にも受け持たせようとしただけのことである。彼らが「事件好き」になってしまった責任の大半は新一にあるのだから、面倒を見るのは当然でしょ?・・・というのが、哀の言い分であろう。
が、当然ながら新一の言い分は別にある。

「・・・あのなあ・・・泥棒の調査ごときに付き合ってやってるほど、オレも暇じゃねーんだよ・・・」

頭をがしがしと掻きながら新一がため息混じりに告げると、「えーっ!」という三人分の不満の声が綺麗なハーモニーを奏でた。

「泥棒だって立派な犯罪ですよ!それを野放しにしてもいいって言うんですか!?」
「そうだぜ、新一兄ちゃん!子供だからってバカにすんなよ!」
「和樹君がかわいそうだよ!何とかしてあげて、新一さんっ!」

(・・・いや、だから、そう言われてもなー・・・)

子供だから、とバカにするつもりはもちろんないが、コトの重要性というか優先順位というか・・・今日の新一にははっきり言って、こんな「しょぼい」事件に関わりあっている暇などないのだ。
・・・かといって、もっと重大な事件に関わっているのかというとそういうわけではなく、単に久しぶりに蘭と二人きりで過ごせそうな週末を邪魔されたくない、という、いささか不純な理由によるのだが。

実は彼らが訪ねてくる少し前に、すでに蘭に電話で「出かける準備して迎えにこい」と伝えてある。小五郎が町内の温泉旅行で明日の夕方まで帰ってこないのは調査済み。・・・蘭さえOKならば、外泊旅行ができる滅多にないチャンスであり・・・ガキの探偵ゴッコに付き合っている場合ではないのである。

しかし、子供相手にそれを正直に告げるわけにもいかず。

「・・・とにかくだな、今日は都合がわりーんだよ」
「え?新一さん、お仕事なの?」
「あ、いや、まあ・・・そんなとこだな」

実は、まったく違うのだが・・・。
ははは、と誤魔化し笑いを浮かべる新一に、哀だけが「へえ・・・そう」と、奥歯にモノの挟まったような相槌を打つのだった。

新一の「仕事」といえば、探偵としての依頼である(・・・いや、本当は高校生の仕事と言えば、「勉強」なのだろうが・・・)。仕事だと言われてしまえば子供達もそれ以上は強く言えなくなってしまったようで、「じゃあようがないですね・・・」と肩を落として諦めたように呟いた。
結果として嘘をついてしまったことに少々罪悪感を覚えないでもなかったが、そういうことにしておいたほうが、話はスムーズに済むだろうし…。
そう思った新一は、

「・・・ま、もう少し自分達で頑張ってみろよ。オメーらならこれくらいの事件、オレの力を借りなくても解決できるはずだぜ?」

と、心にもないことを言って元太や光彦を喜ばせておいて、機嫌よく帰ってもらおうと玄関の扉を開けてやったのだが・・・。

「・・・きゃっ!びっくりしたっ!」

勢いよく外に向かって新一が開いた扉の先に、外泊用の大きな荷物を抱えた・・・蘭が、立っているではないか。
・・・新一の顔が、思わず引きつった。

「・・・蘭」
「ごめーん、ちょっと早く来ちゃった。だって新一が遊びに行こうって誘ってくれたの、久しぶりだったから嬉しくって。あ、新一、まだ準備できてないよね?手伝うから・・・って、え?あれ?哀ちゃん?・・・それに元太君たちも・・・」

一方的に言いたいこと(・・・しかも、新一にとってはこの場でもっともばらされたくなかったこと)を嬉しそうに口にしてから、ようやく蘭は新一の背後にぞろぞろと子供達の姿があることに気づいたようで、「何でみんながここにいるの?」とばかり、不思議そうに瞳を瞬かせている。
そんな蘭と新一を交互に見比べてから、「・・・なるほど、そういうことだったのね」と呟く、哀の冷たい視線が痛かった。
そして、ワンテンポ遅れて事態を理解したらしい、残り三人の子供達の「新一さん・・・」「新一兄ちゃん・・・」「嘘をつきましたね・・・」という非難の声が、耳に突き刺さる。
・・・新一は額に右手を当てて、「あーあ・・・」と呟きつつ、天上を仰いだ。

「・・・え、じゃあ今日の旅行って、みんなも一緒に行くんだ!もぉ、新一ったら、それならそうって前もって言ってよね。そうしたらみんなの分もお弁当作ってきたのに・・・」

一人、事情を理解していない蘭だけが、無邪気に笑ってそんなことを言ってくれるのだった・・・。



※※



「見損ないましたよ、新一さん!」
「仕事だって嘘ついて遊びに行こうとするなんて、最悪だぞ!」
「大人のカザカミにも置けないよねっ!」

(・・・風上の意味、わかってて使ってんのかよ・・・)

工藤家のリビングに場所を移すなり、元太、光彦、歩美の非難の声が、遠慮会釈もなく新一に浴びせかけられた。

「・・・悪かったよ・・・」

4人の子供達が3人掛けのソファに並んで座り、テーブルを挟んで向かい側に座る新一に詰め寄る。新一は足を組んで膝の上で頬杖をつき、深く深くため息を吐き出した。・・・そしてその態度がまた、「反省しているようには見えませんっ!」と光彦に突っ込まれてしまい、「嘘つきは泥棒の始まりだぞ!」とどこかで聞いてきたようなことを元太に怒鳴られる。

(・・・どうしろってんだよ、ったく)

口にすれば、また「反省していない」と言われそうなことを心の中で呟いて、新一はまたまたため息を漏らすのだった。

・・・まさか、こんなに早く蘭が迎えに来ると思ってはいなかったのだ。
電話をかけたのはほんの30分ほど前だったし、「遠出するかもしれねーから、ちゃんと準備してこいよ」と言ってあったので荷物を用意するだけで1時間はかかるだろう、と予想していたというのに。
だが、お誘いの電話を受けたほうの蘭は、久しぶりに新一と一緒に遠出ができると大喜びで準備を整え、慌てて駆けつけてきたのだという。そのこと自体は、蘭が新一との旅行を喜んでくれているという、新一にとって非常に喜ばしい現象なのだが・・・間の悪いときというのはあるものである。

「あなた達・・・あんまり工藤君を責めるものじゃないわ」

新一が一応の謝罪を口にした後も、尚もぷんすかと新一に対して文句を並べ立てる元太たちを、哀が静かにたしなめた。
・・・見た目は小学生の哀が、高校生の新一に対して「工藤君」と呼ぶのは、はたから見ると不思議な現象なのだが、本人達は違和感を感じていない。

「・・・毎日毎日、凄惨な事件現場で心の寒くなるような嫌な場面ばかり見ていれば、たまの休みくらいは彼女とゆっくり遊びに行きたくもなるんじゃない?・・・ま、わたし達の頼みなんて、愛しの蘭さんとの楽しい週末デートの前じゃ塵みたいなものだってことね・・・。けど、それも仕方がないわ。わたし達なんて所詮、彼にとっては何の価値もないただの子供でしかないんだから」
「あのな・・・」

(・・・フォローになってねえだろ・・・)

それどころか、逆に棘と毒がたっぷりと含まれているような気がするのは・・・オレだけか?
案の定、3人の子供達は哀の言葉に、「女の尻ばっか追っかけてちゃ、いい大人になれねーぞ!」だの、「新一さんも、しょせんただの男だったんですね・・・」だの、「事件と恋愛じゃ、恋愛のほうが大事なんだね、新一さん・・・」だのと、好き勝手を言ってくれる。
さらに哀が、「・・・江戸川君がいてくれれば、こんなお忙しい人に頼らなくてもよかったのにね」などと、新一にしかわからない皮肉を口にすれば、「そうだそうだ!」「コナン君なら、絶対に事件を優先しますよね!」「コナン君のほうが、立派な探偵だったよね!」と、3人揃って新一の頭が痛くなるような相槌を打ってくれる。
反論する気も失せて、新一は「はは・・・」と乾いた笑いを漏らすしかないのだった。

(・・・だから、同一人物だって・・・)

だいたい、さっきから事件事件と連呼しているが、新一にしてみればこんなもの、事件の範疇にも入らない。
怪盗KIDが登場したとでもいうならともかく、ちゃちなこそ泥などには元々興味はないし、興味をそそるようなトリックが隠されているわけでもない。これくらい、オメーらだけで何とかしろ!
・・・と、言ってやりたいのはやまやまなのだが、すっかりお怒りモードのこいつらに余計なことを言おうものなら、3倍どころか9倍くらいになって返ってくるのは目に見えていた。

そうして新一が言い返すこともできずに探偵団からの非難を受け続けているところへ、キッチンから人数分の飲み物をトレーに乗せて、蘭がリビングに入ってきた。

「お待たせー!みんな、オレンジジュースでよかった?」
「うん!」
「おう!」
「ええ、ありがとうございます!」

現金なもので、それまで新一に対して文句の限りを並べ立てていた子供達は、甘いジュースと優しい笑顔のお姉さんの登場にすっかり機嫌を直してしまったらしく、声を揃えて「いただきまーす!」と元気に叫び、さっそくジュースとお菓子に手を伸ばす。
その様子をにこにこと笑って見つめながら、蘭は新一の隣に当たり前のように腰を降ろした。

蘭の登場のおかげで自分に向いていた矛先が納められたので、新一も心の中でほっと息をつき、グラスに手を伸ばす。
と、ここが喫茶店などではなく自宅のリビングであったことを思い出し、目の前の光景にちょっとした違和感を感じた。

「あれ?オレンジジュースなんか、うちにあったっけ?」
「昨日買ってきたの。たまには変わってていいかなーと思って」
「え?・・・昨日、来てたのか?」
「新一、今週ほとんど学校にきてなかったから、課題プリント預かってきたのよ。それに掃除もしたかったし、冷蔵庫の中の整理もしたかったから・・・」
「・・・電話してくれれば、早く帰ってきたのに・・・」
「そういう、出来もしないことを言わないの。どうせ推理に夢中になってて、携帯の音なんて気付きもしなかったくせに」
「・・・あー・・・まあ、そうだったかもしれねーけどさ・・・」
「晩御飯も作って冷蔵庫に入れておいたんだけど・・・その様子だと気付いてないみたいね」
「・・・わりい、さっき起きたから・・・」
「えーっ、じゃあ、昨日の晩からご飯食べてないんじゃないの?」
「あ、昨日の晩はコンビニのおにぎりだけ食ったんだ」
「・・・そんな食生活してたら、栄養偏るわよ?」
「しゃーねーだろ?忙しかったんだからよー」
「・・・まあ、わかってるけど。でも事件に一生懸命になるのも、ほどほどにしときなさいよね。体壊したんじゃ、元も子もないんだから」
「・・・わあってるって」

・・・そんな、いつもの二人にとってはよくある会話を交わしていると、ふいにわざとらしい咳払いが聞こえた。見れば、じーーーーっと興味深そうに新一と蘭を見つめている三人分の視線と、哀の呆れたような視線。

「・・・蘭お姉さんって、世話焼き女房だったんだね」
「蘭姉ちゃんがいねえと、飯も食えねーのかよ。情けねーなあ」
「・・・新一さんは生活能力に乏しかったんですね」
「・・・オメーらなあ・・・」

相変わらず好き勝手なことを言ってくれる子供達に、またまたがっくりと脱力してしまう新一と、「世話焼き女房って・・・」と、(恐らく意味を理解して使っているのではないであろう)歩美の言葉に絶句する蘭だったが、そこに哀がさらに言い放つ。

「・・・まあ、この子達のコメントは置いておいても・・・そういう夫婦の会話は、わたし達がいないときにしてもらえるとありがたいわね」
「・・・灰原・・・オメーな・・・」

(こいつらの前でそんな誤解されまくりの台詞を口にしたら、こいつらがどんな反応するか・・・絶対、わかっててやってるだろ・・・)

そしてやはり案の定、

「・・・新一兄ちゃんと蘭姉ちゃん、結婚してんのか!?」
「してねーよっ!」
「だって哀ちゃんが夫婦って言ってたよ!」
「こいつが勝手に、てきとーなこと言ってるだけだっ!」
「あら、私は事実を口にしたまでだけれど?」
「そうですよ!灰原さんが適当なことなんて、言うわけがありません!」
「あのな・・・」
「そっかー!だから蘭お姉さん、新一さんのうちのお掃除したりお買物したりしてるんだー」
「高校生のくせに、結婚なんかしていいのかよ」
「だから、してねーって言ってるだろ!」
「してるも同然みたいなものよね。家事全般どころか、健康管理までさせてるんだから」
「灰原、てめー・・・」
「わかりました!結婚じゃなくて、同棲なんですね!」
「どうせいって何だ?食えるのか?」
「同棲というのはですね、結婚前の男女が一つ屋根の下で一緒に暮らすことを言うんです」
「えーっ!蘭お姉さん、新一さんのおうちに住んでるの?」
「高校生がそんなことしていいのかよ」
「・・・だから、してねーって言ってるだろ・・・」
「してるみたいなものでしょ?あなたの留守中に蘭さんがこの家に入って、掃除したり料理を作ったりしているんだから」

結局。
この収拾のつかなくなった事態を収めるために新一がとった行動は、「わかったよっ!事件の協力してやっから、とっとと現場に連れてけっ!」と、子供達を引きずるようにしてこの家から連れ出すことだった。
・・・新一を事件に引っ張り出そうとした哀の思惑通りにコトが進んでいたことなど、子供達はもちろん知らない。

和樹君の「仮面ヤイバービデオ」は、和樹君の家の隣に住む、浪人生の部屋から発見された。
この浪人生、和樹君の家に空き巣が入るのを自分の部屋の窓から偶然見てしまい(・・・その時点で警察に通報すべきだろ・・・)、空き巣が立ち去った後でこっそりその家に侵入し、件のビデオを持ち去っていたらしい。受験勉強で苛々していた彼は、自分の部屋にまで聞こえてくるビデオの音がうるさくて勉強ができない!と和樹君に恨みを抱いていたらしく、その原因となっているビデオを盗んでしまおうと思ったのだという。
・・・和樹君の部屋に乗り込むなり、侵入者が実は二人いたという痕跡を見つけ出し、すでに逮捕されていた空き巣のものとは別の痕跡からもう一人の犯人を割り出したのは、もちろん高校生名探偵、工藤新一の名推理である。

その名探偵ぶりを目の当たりにした少年探偵たちは、「すっげー、新一兄ちゃん、コナンみたいだったぜ!」と、新一にとってはまったく誉め言葉になっていない賞賛を、惜しみなく贈ってくれるのだった。

そして事件がすべて解決したその日の夕方。
せっかくだからみんなで遊びに行こうよ、という、蘭のとんでもない提案によって、新一は少年探偵団というお荷物を背負って、週末キャンプにでかける羽目になった。

(・・・まあ、わかってねーとは思ってたけどな・・・)

二人っきりで外泊旅行にでかける、ということの意味。
新一としては、当然・・・そういう、つもりでいたので、蘭が外泊の準備を整えて玄関先に立っているのを見たときには、ついに蘭もその気になってくれたか、と、かなり期待してしまっていたのだが・・・。

「みんなで行ったほうが楽しいじゃない!」

と無邪気に笑う蘭の様子に、自分の期待は空回りであったことを思い知らされる。

新一のささやかな(?)望みが成就される日は、いったいいつになるのか・・・神のみぞ、知るのであった。

〜Fin〜



LOVE IS TRUTHのmaaさまから、無理矢理いただいたキリ番リクエスト小説です。
何とも半端な「2626」番。(語呂合わせで『ジロジロ』番だとBBSにカキコしたら、
キリ番扱いにしてくださったのです。←何でも言ってみるものね、と思いました。)
依頼したのは「少年探偵団に色々と突っ込まれて困る新蘭+ほんわかラブ」でした。
maaさまからのコメントでは「ラブ度が上がらなかった」ということでしたが、
めちゃくちゃ素敵v 探偵団との会話が、読んでいてとても楽しかったです。

maaさま、どうもありがとうございました。


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