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さらり さらり ―――



ゆっくりと巡る時の中
時が終わればひっくり返し・・・そしてまた時は進みだす
繰り返し 繰り返し 時が途切れることはない
その者が手を休めることがない限り




砂時計

                     ニッシー 様



窓からは暖かな日差しが差し込む―――まるで2人のような。


「まだ見てんのか。」
「・・・うん。」

さきほどから蘭に声をかければ、気のない返事が返ってくるだけ。
せっかく今日は休日で、今のところ呼び出しもない。
『2人でいたい』という気持ちもあって、オレの家に呼んだのにこれでは意味がない。

(・・・しょうがない、小説でも読むか。)

「ハァっ」とついついため息が漏れてしまうが誰も責めはしないだろう。
ソファからのろのろと重い腰を上げ、隣に座っている蘭にチラッと視線を送ってみる。
・・・が、気がつく様子もなく、書斎へと足を進めようとした。

「・・・ねえ、新一。」

しんとした静寂をやぶらぬようにポツリとオレを呼ぶ。
その声にオレは立ち止まり、蘭のほうへ向きをかえた。
だが、オレが返事を返すことは期待していないようで、そのまま言葉を紡いでいく。

「私の砂はいつ止まっちゃうのかな?」
「はぁ?なに言ってんだ、オメー・・・」

蘭の問いについ大きな声を出してしまう。

「ちょっと、そんな大きな声出さなくても聞こえてるわよ。」
「出したくもなるだろ、いきなりそんなこと言われたら。」
「そう?」
「ああ。」

オレが返事をすると同時に蘭の視線は目の前のものに移される。
視線の先には―――砂時計があった。

「なんかあったのか?」
「ううん、なにもないよ。ただね・・・」

言いよどむ蘭の隣に行き、さきほどまで座っていたソファへと再び腰を下ろした。
そしてオレも砂時計へと視線を向けた。
オレがここに戻ってくるのを待っていたように、蘭は口を開く。

「・・・笑わない?」

甘えるようにオレの肩へと頭をのせる。
普段、意地っ張りなところが目立つ彼女が2人きりになると見せるこんな行動―――
嬉しくて口元が緩んでしまう。

(ったく、からかう時ならともかくとして、こんな真剣な蘭を前にして笑うわけないのにな。)

「ああ、笑わないよ。」

それでも話す気配が見られず、蘭のさらさらと流れる黒髪にふれた。
甘い、蘭の香りがオレの鼻をくすぐる。
蘭は気持ちよさそうに目を閉じ、そっと目を開く。

「ただ・・・私は砂時計みたいだなって思ったの。」

こんなときはなにも言わずにいたほうがいいのだろうか。
その間もオレの肩には蘭のぬくもりが、蘭の頭にはオレの手がおかれている。


―――コトン


蘭が砂時計をひっくり返す。
それと同時に上から下へ砂が落ち、時が動き出す。

「砂時計って・・・ひっくり返さないと砂が落ちていかずに、ただそこにあるだけでしょ。」

蘭はじっと砂を見つめている。

「でもね、誰かが動かしてあげれば、こうやって静かに流れていくの。
気づいていないかもしれないけど、私も新一に動かしてもらっているの。こんな風に―――。」
「オレが・・・?」
「ん・・・、私ね・・・ずっと、ずっと新一が好きだったんだ。もちろん、これからもそれは変わらない。」
「分かってる。」

そう言い切ったオレにくすっと蘭が笑う。
分かってはいる『つもり』だ。
少し前までコナンの姿でひしひしと感じ続けていたのだから。

(あんなことは1度きりで十分だ。蘭も、オレも・・・。)

「でもね、好きだなって感じる分、苦しいときもあったの。
そんな時、いつも新一が私の心を見抜くように言葉をかけてくれた。
その度に思ったの。・・・諦められるわけないって。」

2人でこうしている間にも少しずつ砂は動きを止めていく。―――

「止まろうとすると、新一が手を差し伸べて私の砂時計をひっくり返すの。
そんな新一の手に応えたいと思って、また砂を溜めていくんだ。
砂の1粒1粒が私から新一への気持ちなんだよ。」
「蘭の砂時計を守る番人ってわけか、オレは?」
「・・・だね。」
「それがどうして砂が止まることになるんだよ?」
「今が幸せすぎて・・・それを新一に伝えたくて、いつか砂を守っていたガラスが割れて、溢れていきそうだから。」

そんなことを言う蘭に愛おしさが増し、蘭をオレの腕の中へと閉じ込めた。
いつもならここで文句の1つもとんでくるが、今日はそれがない。

「オレが直してやるよ。」
「えっ?」
「もし壊れても、俺が蘭の砂を集めて直してやるよ。なんたって蘭専用の番人だからな。」
「・・・ちゃんと砂が流れるように直してね。」


―――コトン


いつの間にか流れることのなくなった砂時計を、片手を伸ばしてひっくり返す。

「こんな風にか?」
「そう、そんな風に。お願いね、番人さん。」




君こそ気づいているのだろうか。
幼いころからオレの夢を誰よりも瞳を輝かせて聞いてくれていた。
探偵として活躍するようになり、誰よりも心配をしてくれていることも知っていた。
コナンになってからは、蘭が伝えてくれた気持ちを胸に前へと進み続けた。
そして、今もこの幸せを守り続けたいと思い、もがいている。
蘭がいるからこそ、もがくことすら明日へと繋がると思えてくる。


『諦めるな』と君がオレの砂時計をひっくり返してくれる。
だからこそ、オレは今ここにいられるんだ。

今の俺がいるのはオメ―のおかげなんだ。


「ありがとな、蘭。」


いつの間にかオレの腕の中で眠っていた蘭に小さく感謝を述べた。


2人の砂時計はいつまでも流れ続けるだろう。 途切れることなく―――。


――― END ―――



ニッシー様よりいただきました、素敵小説第2弾。
こういう「小物」を上手く取り入れたお話、大好きなんです。
普段の生活でも目にする、何でもないようなものでさえ、
気持ちの向け方や捕らえ方によって、こんなに違って見えるんだなぁと思って。
それから、全体的に漂う優しい雰囲気と、簡潔にまとめられた言葉たちにも、脱帽。ああ、見習いたい。
読後、じんわりと心が丸くなるようなお話ですよねv

実は、新蘭界の僻地に生存中の我が家に、ニッシーさんから時折温かい声援をいただいているのです。
で、そのメールの中に、こんな素敵なお話が入ってたりするのですよ(><)
私だけが堪能するのは勿体無さ過ぎて、また無理矢理にサイトアップの許可をいただいてしまいました。
これは「世の中の新蘭好きーの皆様に、お披露目しなければ!」と思ってしまったんだもの。
ということで、ニッシーさん、ご声援&素敵なお話を有難うございますv
至らぬ管理人ですけれど、これからもどうぞ宜しくv


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