Sorry, this page is Japanese text only.







終わりを告げる瞬間に
                       ニッシーさま



ヒラリ・・・と舞い散るピンクの花びら。
あんなにも咲き誇っていた花たちも静かに終わりを待っている。


そんな花びらは学校帰りの2人の元にも舞い落ちていた。

「今年も綺麗だったね。」
「そうだな。」

そう言った彼女の顔はどこか寂しそうだった。

「咲き始めると・・・散っていくまであっという間だったね。
どうしてあんなにも早く散っていくんだろう。もっと見ていたいのに。」
「・・・だからかもしれねーな。」
「えっ、何が?」

彼女はオレの言葉に本当に疑問に思ったのだろう。
「どういうこと?」なんて顔を見せている。

変なところで意地っ張りな姿を見せ、変なところで素直な彼女。
目の前にいる彼女からしてみれば、オレも同じらしいが。
けれど、可笑しくて、そんな彼女が可愛くて、愛おしくて仕方がない。
(オレのほうが彼女に惚れこんでるな)なんて思いつつ、それもいいかと思ってしまう自分がいる。

そんな自分に、彼女に、思わず笑みがもれそうになる。

彼女はそんなオレを見て顔を赤くしていた。

「・・・蘭。おい、蘭。」

そんな彼女が心配になり、声をかける。
幾度か彼女を呼んでみるとようやく反応を返してきた。

「な・・・何?新一。」
「何ってオメー、熱でもあんのか?顔赤いぞ。」

熱を測ろうと彼女の前髪とオレの前髪を手でかきあげ、お互いの額で熱を測る。
・・・が、測ろうとした途端、彼女が「大丈夫、本当に熱なんてないから。」と慌てたように言う。
その顔は舞い散るピンクの中でも分かるほどに赤くなってしまっている。

「そんな顔で言われても説得力ねーぞ。それに昔からオメーの大丈夫は当てにならねーし。」
「体調が悪くなったらすぐに休むから・・・ねっ、今は本当になんともないし。」
「・・・本当だな。」
「うん。」

どこかすっきりしなかったが、どうやら彼女の言っていることは正しいらしい。
慌てている彼女の額から手を離し、その手が彼女の前髪をサラリと通り抜ける。

「でも、なんかあったら言えよ。オレに。」

つい、「オレに」というところに力を入れてしまう。
「蘭に何か起こったときに1番に知っておきたい」というガキじみた我が儘だ。

彼女は驚いたように瞳を大きく開けている。
そして一瞬の後、彼女はふわりと笑いかけた。
まるで、今のオレの気持ちを読み取ったような微笑みだった。

「ありがとう、新一。」

オレはそんな彼女の言葉に照れくさくなり、視線を彼女から空へと外した。
自分たちの数メートル離れた場所から、風に乗せて花びらがこちらへとやって来るのがわかる。
ふわっと春風になびく彼女の髪に惹かれるように、花びらが静かに彼女の髪に落ちていく。

なんとも綺麗な光景だ。

しかし、そんな光景の中でも嫉妬してしまうオレがいる。

(例え花びら1枚でも蘭に触れさせたくない、なんてオレもヤベーかな。)

「ついてるぞ」と言って、彼女の髪から花びらをとった。
そんなオレの行動と、花びらを見てどうやら先程の話を思い出したようである。

「ねえ、新一、さっきなんて言おうとしてたの。」
「なんのことだ?」
「なんのことって・・・あんたね〜。
さっき桜の話をしていた時に新一が「だからかもしれない」って言ったじゃない。」
「・・・ああ、あれか。別にたいしたことじゃねーし・・・。」
「たいしたことじゃなくても気になるじゃない。なんて言おうとしてたのよ。」
「・・・ったく、教えればいいんだろ。」

どうもオレは目の前にいる彼女に弱いらしい。

(まっ、今に始まったことじゃねーよな、オレの場合。)

「たださ、オメーはもっと桜を見ていたいって思ったんだろ?」
「うん。」
「だから、桜は自分を見ていたいと言ってくれる人たちがいる間に散っていこうと思ったのかもしれない、なんて思ってさ。」

そう言っている自分自身に(んなわけねーけどな)と思いつつ、話を続ける。
蘭が喜びそうな答えを探しながら。

「そうすれば来年また咲いた時に見たいと願っていた人たちが見に来てくれるだろ。
そして喜んでくれる。それは桜にとっても嬉しいことなのかもしれない。
桜の咲き誇った姿を待ち望んでいる人がいる限り、桜は散っていくのかもしれねーな。」

隣には「・・・そうかもしれないね。」と静かに頷く彼女がいた。

そんな彼女を見て、どこかでオレもそう思っていたのかもしれないと感じていた。

「なぁ、蘭。見てみろよ。」

そう言って、自分たちが歩いている道を指差す。
彼女もオレの指の差すほうへと視線を送る。

「桜だって全て散っちまったわけじゃねーし・・・。ここにあるだろ。」
「わぁ・・・、ほんとだ。」

彼女の顔には満面の笑顔。
オレだけが見れる、オレだけに見せてくれる「蘭」の笑顔があった。


指差すほうには―――まるで歓迎しているように道に落ちていく無数の花びらだった。


「散ってもまだ綺麗だって・・・思わせてくれてるんだね。」
「ああ、そうだな。」



花びらが散り始め、通いなれた道がピンクのじゅうたんのようになっている。
そんな道を2人で通ることも、もうすぐ終わりが来るのだろう。
それでも来年、また彼女とこんな景色を見ていたいと思う。
そんな風に思うのは桜と・・・隣で微笑む彼女に魅せられているからなのかもしれない。


隣で歩く彼女との会話を楽しみながら、ゆっくりと家路へとつく。
舞い散る桜とともに。




「これからも一緒にいろんなものを見ていこうね。」


―――そんな彼女の言葉にささやかな幸せを感じながら。





――― END ―――




ニッシー様よりいただきました、素敵小説第4弾。
またまたサイトアップのお許しを奪い取ってしまいました(^^;
『桜』という花は、どうしてこう、日本人の心をくすぐるのでしょうか。
ちょこっと散り始めの頃が奇麗だな、と私は思うのですが、皆さんはいかが?
ソメイヨシノは実を結ばない品種なので、日本各地に散らばる桜たちは、ほとんど
親戚状態(つまり、挿し木で増やしたもの)で、だから「一斉に割いて、一斉に散る」
ということらしいです。

花弁1枚でも、蘭ちゃんとの接触を許さない新一が、私的にツボでした。
いつも有難うございますv私も頑張らなくちゃ、ですよね。


[Back to Page Top]

Back →


Copyright© Karin * since 2003/July/07 --- All Rights Reserved.