Count Down !         be様



毎年、12月半ばくらいから、米花公園の木々に電飾が取り付けられる。
夕方6時のチャイムで点灯されるイルミネーションを見に、カップルなんかが集まってくる。
特に、点灯の瞬間は感動らしく、待ちわびた人たちから感嘆の声が漏れる。

噴水もカラフルなライトアップがされて、冬の水墨画のように色を無くした光景に花を添えている。

また、31日には、公園でカウントダウンの花火大会が行なわれる。
もちろん、夏の堤無津川の花火大会なんかに比べれば、格段に落ちるのだけれども。
11時50分頃から打ち上げられた花火は、年越し1分前に、一旦止む。


10、9、8、7、6、5、4、3、2、1・・・


0時ちょうどに、特大花火が打ち上げられ、周辺に拍手と喝采が溢れる。








昨年は、そんな花火の響きを、遠くで聞いていた。

でも、今年は・・・・。

今年こそは、2人で・・・・・。








「初詣?」
「うん。米花神社まで行ってこようよ」
「かったりーーー・・・」

新一が人ごみを嫌っていることは十分承知している。
それでも、蘭も譲れない。

「だって、受験だし、合格祈願くらいしたいじゃない」
「神頼みするくらいなら、もっと勉強した方が建設的だぜ」
「もぉ。そうじゃなくて! 安心感ってものがあるじゃない」
「オレは必要ないね」
「私には、必要なの!!」

必死な様子の蘭に、新一は溜息混じりにOKの返事をよこした。

なんだかんだと言っても、結局は、蘭を放ってはおけない。
散々、わがままを言って、放っておいたのだから。

「じゃあ、夕飯作りに行くから、その後で行こうね♪」

ニッコリと笑顔を見せられると、もうNOという答えは出ようはずもない。






かくして、蘭の策にまんまとはまっていく新一なのでありました。







高校3年生の冬と言えば、1月のセンター入試が目前に迫っていて、余裕などないものがほとんど。
蘭も例外ではない。
だからこそ、工藤邸に通う日々が続いていた。

「新一に勉強を見てもらうから」

という口実の元、ほぼ毎日、小五郎の夕飯を作った後に、工藤邸へと通う。
新一にも夕飯を作り、2人で食べる。

それをしたいがため・・・という噂もあったけれど。

本当のところは、毛利探偵事務所は落ち着いて受験勉強をできる環境にはなかったからだった。
新一が戻ってきてからは、また開店休業状態に戻ってしまい、小五郎は、毎晩、飲んだくれる。
勉強をしていようが、小五郎はお構い無しで、酒がないだの、つまみがないだのと言ってくる。


新一が勉強を見てくれているのも本当だが、ほとんどは、別々にそれぞれ勉強している時間のほうが長い。
蘭も、できるだけ自力でやりたがり、どうしてもわからない時だけ、新一に質問する。
新一は、取りあえず一通り目を通せばわかってしまうから、根を詰めて勉強するといったこともない。
ただ、蘭が目を離すと、勉強をせずに、事件のスクラップなんかを始めてしまう。
だからこそ、そんな新一に目を光らせる意味でも、工藤邸での勉強会は有効なのだった。



リビングで、2人、それぞれに勉強をしている。

蘭は、床に座り込んで、テーブルに置いたノートに一生懸命、数式を書いている。
姿勢が悪くなると、何度、新一が言っても、これが1番落ち着くのだといって聞かない。
新一は、ソファの足を投げ出して、古文の『徒然草』を読んでいた。

カリカリという、蘭のシャープペンが走る音。
パラパラという、新一がページを捲る音。

静寂の中で、そんな音だけが響いている。

受験生には、クリスマスもお正月もなかった。



それでも、今日だけは。
許してくれるよね?



蘭は、退屈そうな新一にチラリと視線を送る。
本当は、古文の作品なんかじゃなくて、ホームズを読みたいんだろうな。
不機嫌そうに寄った眉間の皺を見れば、それは一目瞭然。

時計を見れば、11時を指している。

夕飯の片付けが終わってから、ずっと机に向かっていたから、かれこれ2時間半ほどか。

「んーーーーーっ」

わざとらしく、伸びをして、新一の注意を本から自分に向ける。

「疲れたか?」
「うん。ちょっとね」
「コーヒーでも淹れるか?」
「あ、私やるよ」
「これくらいは、オレがやるって。お前は少し、体、伸ばしてろよ。肩こるぜ」
「はぁい♪」

素直に新一に従っておいて、キッチンに消えた新一に笑ってしまいそうになる。


キッチンから戻ってきた新一が手にしたトレイには、自分用の濃い目のコーヒーと、蘭用のカフェオレと、
蘭が焼いて持ってきた、クッキーが乗っていた。

「少し、エネルギー補給だな」
「うん!」

蘭は床に座ったまま。
新一はソファに座る。
いつもの定位置。

「寒くないか?」
「うん。平気だよ」

暖房はつけているけれど、暖かい空気というものは上に集まってしまう。
新一は何度も『冷えるからやめろ』と言うけれど、自分の家でもソファに座る習慣がないから、この方が落ち着くのだ。
見かねて、新一は冬になるとテーブル周辺のラグを起毛の暖かいものに変えている。
それから蘭用にと、フリース素材の膝掛を用意していた。

「寒いだろ、こっちこいよ」
「平気だってば」

新一は、単に蘭を抱き締めたいだけ。

蘭にもそれがわかっているから、意地でも床から動かない。
カップを持っているから無理矢理引き寄せようとはしなかったけれど、飲み物が空になれば強引に新一の腕の中におさめられるだろう。


新一に抱き締められるのは嫌いじゃない。

むしろ、好きだ。


ただ、時と場合をわきまえて欲しいのだ。
こんなふうに2人きりの時ならいいのだが、人前だろうが気にする人ではないから困る。

手を伸ばしてこようとする新一を牽制しておいて、蘭はクッキーをつまむ。





そうこうしているうちに、時計は11時半に届きそうになっていた。

「あ、そろそろ行こう!!」
「ホンキで行くのかよ・・・」
「ホンキ!! ほら、準備して!」
「へいへい・・・」

諦めたのか、新一はコートを取りに自室に行った。
蘭はカップをシンクに運び、自分もコートを羽織る。

仏頂面の新一の腕を取ると、新一は少しだけ機嫌を直したようだった。

「そっちじゃねーだろ」
「いいから、行こう!」
「あ、おいっ・・」

米花神社に行く方向と、米花公園へ行く方向は、少し違う。
新一は目敏く気付いたけれど、私はグイグイと新一を引っ張っていく。


事件には素早く反応するくせに、世情と言うものには疎い。
だからこそ、蘭の悪巧みも成功すると言うもの。
鼻歌交じりにウキウキと歩いている蘭の横顔を見ているだけで、新一は、まぁ、いっか・・・と何度目かの諦めの溜息を漏らした。

米花公園に近づくにつれて、カップルが多くなってきた。

皆、幸せそうな笑顔を浮かべている。

「公園になんかあんのか?」
「いいから♪」
「教えてくんねーのかよ」
「知らないほうが、ワクワクするでしょ」
「・・・・事件ならな」
「もぉ。これなんだから・・・」

蘭も、同じような諦めの溜息。
やっぱり、新一の頭の中には、事件のことしかないようで。
蘭としては、そんな新一を少しでも現実世界に引き戻したかった。



普通の高校生のように。

普通のカップルのように。



できれば、いつも暗い世界を垣間見ている新一に、本当はこれが自分達の生活なのだと自覚して欲しい。

「すっげー人だな」
「ホント。いっぱい集まってるね」

公園の中に入っていくと、電飾に飾られた木々が煌びやかに輝いていた。

「へぇ、イルミネーションか」

新一も、蘭の意図を察したようで、2人で木々の間を抜け、中央の噴水に向かう。
そこはやはり、人でひしめきあっていた。
普段ならば、夜の10時で噴水もイルミネーションも止められるのだが、今日は特別。
周りで煌めく光と、噴水を照らしだす虹色のライト。

蘭は、こうゆうのが好きだからな。

ロマンティストな恋人の嬉しそうな横顔。
まったく、何が嬉しいんだか。
新一としては、そう思ってしまうのだが。
蘭だけがそうなのか、女というものはすべてそうなのかはわからなかったけれど、とにかく、蘭が笑っているのだから、それでいい。


噴水を背にして、取り囲んでいる木々のイルミネーションを眺めていると、急に、その明かりがすべて消えた。

「え?」

驚いたのは、蘭ではなくて新一だった。
それは、もちろん、蘭がこの後に始まることを知っていたから。
12時になって、点灯時間が終わったのかと思い、時計を見て、時間を確認する。
だが、時計は11時50分を示していた。

首を傾げた瞬間、ピューーーーーと音が響いた。

周囲の人々が、一斉に天を仰ぐ。
蘭も例外ではなくて、笑顔を空に向けている。


ドンッ


大きな音が響いて、光の大輪が、夜空に広がった。

「花火か・・・」
「うん。カウントダウン花火なの」

一瞬だけの儚い光。
その光に浮かび上がる、輝く笑顔。

「ホント、好きだよな、お前」
「・・・いいじゃない」
「でも、花火って夏の風物詩だろ」
「・・・だったら、帰れば!」

ぷっと膨れっ面になる。
まるで、百面相だ。
蘭を見てると、飽きねーよなぁ。


どのくらい、花火が続いただろうか。

まだ、12時は過ぎていないのだろうか?


そう思っていると、ふいに花火がやんだ。





どこからともなく、カウントダウンの掛け声が聞こえ始めてきた。

30、29、28・・・・



新一は、自分の時計を見ながら、時間を確認する。



15、14、13・・・・



蘭も、掛け声に唱和するように、声を上げている。
新一は、蘭の肩を抱き寄せると、驚いている蘭の唇を塞いだ。



10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0



ゼロの声と共に、先程までよりも大きな花火の音が響き渡る。
その響きが消え去った頃、ようやく、新一は唇を解放した。

何か言おうとする、蘭の唇に、人差し指を当てて制する。




「A Happy New Year!」




流れるような綺麗な発音。
自分だけを見つめてくれている、輝く瞳。
自分だけに向けられている、極上の笑顔。




「今年も、よろしくな!」




その言葉だけで、もう、何もいらない。
周りのことなど、蘭の頭から消えていた。
ギュッと抱き締めてくれるその強い腕に、しがみつく。




新一は、いてくれる。

今も、これからも、ずっと。

私のそばにいてくれる。




蘭は、安心したかのように、顔を上げると、新一を見つめ返した。

「こちらこそ。よろしくね!」

蘭が新一の極上のスマイルに悩殺されたように、新一も蘭の笑顔にノックアウトされていた。









そして、米花神社へと向かう途中の2人の不毛な会話。

「やったね、蘭ちゃんと2年越しのキスしちゃった!」
「な、なんてこと言うのよ!!」
「本当のことだろ♪」
「もぉ!!」
「蘭だって、抵抗しなかっただろ?」
「て・・・、抵抗って・・・」
「いいよ!ってお許しくれたじゃん」
「お、お許しなんて出してないわよ!」
「ムードたっぷりな所に連れてきただろ」
「あ、あれは・・・。夏に、一緒に、花火、見れなかったから・・・」
「どっちにしても、もうしちゃったもんな♪」
「新一!!!」

2人が神社から帰って来た時、新一の頬が腫れていたとか、いなかったとか・・・。





Fragile Heartのbeさまのフリー小説をいただいてきました。
新蘭バージョンです。
もう、素敵ですよね〜。キラキラでラブラブ。(意味不明、、、?)
女の子らしい蘭ちゃんがとっても可愛くて、何だかんだ言っても蘭ちゃんの笑顔には逆らえない新一も、
そこが彼らしくて、微笑ましいですよね。
・・・こういう関係の二人が大好きですv

平和バージョンはこちらから →

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